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銀星石のブログ

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銀星石のエッセイブログ

ARMORED CORE Vandalism of birdcage 後編

 『ARMORED CORE Vandalism of birdcage』の後編です。







実戦訓練
依頼主:赤木鳩美

前払い報酬:0Au
成功報酬:0Au

 エージェント本部の機密区画にて、私と戦ってください。
 私達、例外的成長個体同士が戦えば、互いにを成長しあって、飛躍的に能力を向上させることが出来るでしょう。
 また、私に勝利した場合、五人目のランク1として、『フィフスレイヴン』の称号が与えられます。
 あなたが来るのを、心からお待ちしています。



 ステロイドは、エージェント本部のAC用エレベーターの前にいた。
 この場所はアリーナが開催される時の控え室として使われており、目の前のエレベーターを使って、上階にある対戦場へと向かう。
 エレベーターの扉が重い音を響かせながら開く。
 ステロイドが中に入ると、普段は上へ向かうエレベーターは、今回は下へと向かった。
 乗っている時間は十分近くにも及んだ、かなり地下深くまで下っている。
 一体どこまで降りるのだろうかと、レイヴンが考えはじめた時、エレベーターは停止した。
 エレベーターから降りると、百メートルほどの通路に出た。その先には扉がある。
 ステロイドは通路を抜け、扉を抜ける。
 AC一機がギリギリ抜けられる通路から反転、非常に広い空間に出た。
 そこは住宅街だった。
 全く同じデザインの住宅が、均等に配置されている。
 どの住宅も破壊されていた。痕跡を見れば、それが砲弾や爆発物によるものだと分かる。ここで戦闘が行われていたのだ。
 ステロイドは街の中を進む。
 地下にある住宅街を内包している空間は正方形をしており、その中心点には十字路があった。
「お待ちしておりました、私の好敵手」
 十字路には赤木鳩美とパワー9がいた。
「驚かれましたか? この住宅街もまた、荒廃前の遺跡の一つです。地上の汚染から逃れるために作られたのですが、環境維持システムの故障によって放棄されたものです。その後、コンピューターが秘密の演習場として再利用しました」
 レイヴンは、もしかしたら世界のどこかには地下で大勢の人間が暮らしているのではないかと考えるが、今はそんな空想を思い浮かべる時ではないので、すぐに頭から消し去った。
「例外的成長個体の力によって、異様に実力を成長させる私は、親からすらも怪物と恐れられました。でも、貴方だけは違う。同じ力を持つ貴方だけは、私を人だと思うことが可能である、唯一の同胞」
 赤木鳩美の声は、まるで恋人と語らうかのような熱を持っていた。
「さあ、早く戦いましょう。なお、これは訓練ですので、実弾は使うものの、コクピットは狙いません」
 パワー9が両手のパルスマシンガンをこちらに向ける。
 相手の機体構成は初めて遭遇したときと同じだった。あの時はかろうじて撃退できたが、それはほとんどが幸運によるものだといっても良かった。
 しかしレイヴンは、今度こそは自らの力で撃退してみせるつもりだった。
 パルスマシンガンから放たれる、強烈な熱を持った光弾を、ステロイドは十分に余裕を持って回避する。
 反撃で、ステロイドは両手のライフルを撃つ。しかし、パワー9もやすやすとよけた。
 自分が相手の動きを読めるならば、赤木鳩美も同じことが出来るのだ。
 再び、パワー9の攻撃がくる。今度は初撃と違って紙一重の回避だ。だが、ステロイドが行った二度目の反撃も、相手は紙一重で回避していた。
 余裕を持った回避と、ぎりぎりの回避。ステロイドもパワー9も、それを交互に繰り返す。例外的成長個体の能力によって、片方が成長して相手を上回れば、相手も成長する。それが何度も続いているが故の現象だ。
 こう着状態が続く。時間が経過するほどに、流れ弾によって廃墟となった住宅街がさらに破壊される。
 ステロイドとパワー9の周囲にある住宅が、跡形もなく破壊されつくされたころ、ようやく戦いに変化が生じた。
 ステロイドが左手に持っているライフルが、パワー9のパルスマシンガンで、銃身部分を蒸発させられてしまう。
 半分になってしまった銃を捨て、ステロイドは肩のハンガーに吊っている、バトルライフルの銃杷をつかむ。
 その時、パワー9が追撃を行った。パルスマシンガンによって、ひじ部分を破壊されてしまう。左下椀部はバトルライフルをつかんだまま地面に落ちる。
 だが、ステロイドは攻撃を受けたと同時に反撃も行っていた。無事な方の腕が持っているライフルで、パワー9の右手にあるパルスマシンガンを破壊したのだ。
 パルスマシンガンが爆発し、持っている右手を巻き添えにする。爆風でパワー9がよろめいた。
 その隙に、ステロイドはもう一方のパルスマシンガンもライフルで攻撃した。同じく爆発するが、今度は、パワー9は直前に武器を手放して左手も失われてしまうのを防いだ。
 そこで、もう一丁のライフルの残弾が尽きた。
 ステロイドは不要となった武器を棄て、後退しながら最後に残った右のバトルライフルを手に取る。
 その間にパワー9も、肩の武器に持ち替えていた。
 右のハンドガンは無事だが、肝心の持つ手が無い。パワー9に残されている武器は、無骨な超合金で作られた実体ブレードのみだ。
 勝ったも同然だ。パワー9に懐へ入り込ませないよう注意すれば、後はバトルライフルを撃ち続けるだけで勝負が決まる。
 そのはずだが、レイヴンは余裕を感じられなかった。
「ああ、なんと素晴らしいのでしょう。自分と対等の人がいる。こんなにも嬉しいことはありません」
 赤木鳩美のように、戦いの中に喜びを見出す者をレイヴンは何度か見たことがある。
 だが、彼女が楽しんでいるのは戦いの緊張感ではない。
「そう、私は間違って生まれた化け物じゃありません!」
 間違って生まれた化け物。
 親であるビックブルーからそう言われてしまったのだろうか。
 例外的成長個体の力は赤木鳩美を孤独にしていた。特異な性質は平凡な者たちを恐れさせる。恐れは次第に大きくなり、やがて存在自体が間違いであるという敵意へ変わる。
 だから赤木鳩美は好敵手になりうる人物を強く欲していた。
 好敵手とは単純な敵対関係ではない。相手が強い力を持ちながらも、敬意を込めて存在を認める。そして、認めたからこそ、その存在を超えたいと闘志が湧いてくる。そういう関係なのだ。
 赤木鳩美が、単に自分を恐れない他人ではなく、あえて好敵手という関係を求めているのは、自身が持つ能力を認めて欲しいのだ。
 おそらく、例外的成長個体という特異性を気にせず、赤木鳩美を普通の人間と認識できる人間は、それなりにいるだろう。
 だが、彼女が持って生まれた特異性を認めたとは違う。むしろ目を背けているとも言える。
 赤木鳩美が例外的成長個体だからこそ、関係性を持つ意義が生まれる。そう言えることができるのは、好敵手以外にいないだろう。
 ならば、彼女の望みを叶えてやろうとレイヴンは考えた。
 少なくとも、今に限っては。
「行きますよ! 私の好敵手!」
 パワー9が実体ブレードを構えて突進してきた。
 ステロイドは迫ってくる敵に向かって、バトルライフルを撃つ。
 その瞬間、パワー9が実体ブレードを振るった。超合金の刃は、飛来する成形炸薬弾を切断する。
 撃たれた弾を斬り払う。
 発生するはずのない出来事に、レイヴンは驚く。だが、赤木鳩美なら可能かもしれないとも思っていたので、狼狽はしなかった。
 すでにパワー9は至近距離にまで達し、回避は不可能だ。
 レイヴンに諦めはない。勝ち目はまだあるからだ。
 パワー9が実体ブレードを振るう。頭部を狙っている。
 超合金の刃が達する寸前、ステロイドはわずかに状態をそらす。
 刃は切っ先でステロイドの頭部の額をわずかにひっかくだけに終わった。
 その直後、ステロイドはすかさずバトルライフルでパワー9の脚部を撃つ。
 片足首が破壊され、パワー9は横に倒れこむ。
「私の負けですね」
 赤木鳩美は自分の敗北を認めた。立ち上がることが出来ないパワー9にもはや戦闘能力はない。
「さすが私の好敵手です。これで私は、少しばかり変わった力を持っているだけで、間違いなく人間であるのが証明されました」
 赤木鳩美の言葉に悔しさはない。
「コンピュータに協力したのは私にとっては幸福でした。管理されたことによって、私は貴方という同胞に出会えたのですから。ふふふ」
 鳩美は嬉しさで笑っていた。
「見事だ、レイヴンよ」
 合成された音声が通信機から聞こえてきた。
 おそらく、エージェントを管理しているコンピュータだろう。
「赤木鳩美に勝利したことにより、きみはランク1となり、フィフスレイヴンの称号を与えよう」
「おめでとう御座います。そして、これからもよろしくお願いします、私の好敵手。コンピュータの管理の元、互いに切磋琢磨して力を磨き合いましょう」
 その時、シャルロットから通信が入ってきた。
「レイヴン! コンピュータの居場所を突き止めたわ! 今いる場所の、あなたが入ってきた反対側の扉から行けるわ」
 シャルロットが頼んでいたことを達成してくれた。
 ステロイドはパワー9をこの場に残して、奥へと進もうとする。
「レイヴン? 何をするつもりですか?」
 レイヴンは答えない。
「待ってください、私の好敵手!」
 パワー9がステロイドを追いかけようとするが、脚部を破損して歩けない状態なので、立ち上がろうとしても、すぐに倒れてしまった。
「待って! お願い、行かないで! 私を独りにしないで!」
 赤木鳩美は涙声で叫ぶ。
 だが、レイヴンは止まらない。
 自分と赤木鳩美は元から触れ合うことのない存在なのだ。
 渡り鳥は、管理と言う名のカゴの中で生きている鳥とは、決して縁を結ぶことなど無いのだ。



「レイヴン、何をするつもりだ。ここより先は立ち入りを許可できない」
 通信機から聞こえてくるコンピュータの声は、機械らしい冷静なものであったが、想定から外れた出来事に、どこか余裕のなさも感じられた。
 今、ステロイドは長い通路をひたすらに突き進んでいた。
「帰れ。今ならまだ水に流そう」
 コンピュータの言葉をレイヴンは無視し続けた。
 敵の言葉には従わない。
「そうか。あくまで私に逆らうというのか。いいだろう。もう止めはしない。そのまま進むがいい」
 コンピュータからの通信が終わった時、進行方向から敵機が待ち構えていた。
 それは人と鳥を融合させたような姿をしており、背中の翼を含めると、ステロイドの倍近くはある巨体だ。
 敵機が両手をこちらに向けてくる。指先は機関砲になっており、無数の弾丸がステロイドに襲いかかる。
 だが、手の向ける角度でどこを狙っているかわかったので、ステロイドは一発も当たらずに回避した。
 知覚がこれ以上無く鋭くなっているのを感じる。赤木鳩美との戦闘で、レイヴンは大きく成長していた。
 バトルライフルを立て続けに二度撃つ。弾は敵機の両手にそれぞれ命中して破壊した。
 敵機は、今度は翼の先からレーザーブレードを出して突進していた。狭い通路の中で翼をひろげているので、左右に回避できる場所がない。
 ステロイドはバトルライフルを撃つ。狙うは、敵機の片方の翼のジョイント部分だ。
 弾が命中し、翼が破壊される。
 敵機は片方の翼を失ってバランスを崩すが、無理やり体を捻って、残っている翼のレーザーブレードでステロイドを切り裂こうとする。
 ステロイドは迫り来る敵機に向かって、更に加速して突進していった。そのため、翼の可動範囲の内側へ入り込むことが出来た。
 ステロイドは、密着状態でバトルライフルの銃口を敵機へ押し当て、三発連射したあと、蹴り飛ばした
 動力部に損傷を受けたのか、爆発四散する。
 敵機を倒したステロイドは、その残骸を蹴散らしながら進攻を再開する。
 しばらく進むと、通路を抜けた。
 そこはドーム状の空間であり、中央には六角柱が集まった構造体がある。
 エージェントという組織を作り出し、そして今まで干渉を行なってきたコンピュータと、レイヴンは遂に対峙した。
 ステロイドはバトルライフルをコンピュータに向ける。
「待て、レイヴン。いったい何が望みなのだ。なぜ管理を拒絶する。それこそが唯一の正解だというのに」
 レイヴンは答えない。答えたところで、コンピュータに理解することは出来ないだろう。
「やめろレイヴン!」
 コンピュータが初めて感情を露わにした。
 それは恐怖だった。
 ステロイドはバトルライフルを撃つ。
「レイヴン……どうしてこんな事を……」
 損傷を受け、コンピュータの声はノイズ混じりになっていた。
「人は……秩序無くして生きることが出来ない…それが私のような存在が作った……偽りのものであっても…お前は……人を滅ぼしたのだ……」
 ノイズはどんどん強くなり、コンピュータに宿っていた知性が消滅していくことを示す。
「イレギュラーめ……」
 コンピュータの発した最後の言葉は、恨めしさと悔しさの混じった怨嗟の声だった。
 管理社会は、確かに荒廃したこの世界を復興させ、多くの者にとっては幸福を与えるだろ。
 管理社会は人を生存させるかも知れないが、それはただ生存させるだけだ。自由がなく、自分は自分だという意識を持つことが出来ないのであれば、わざわざ人として生きる必要はない。
 自由であるからこそ、人として生きる意義が生まれるのだ。
 だからレイヴンはコンピュータを倒した。それが、平穏という名の鳥かごにたいする、悪質な破壊行為であったとしてもだ。
 レイヴンは今後も自由であり続ける。自分で自分の行動を決定し、その結果を全て受け入れる。たとえそれが良いことばかりではなく、自身にとって不利益で不幸な結果であったとしても、それを受け入れる。
 自由とは、そういうものであるはずだ。
 そして、人類が自らの力で再び立ち上がることが出来ないのなら、そのまま死ねばいい。
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by ginseiseki | 2012-11-10 14:05 | 二次創作小説
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