銀星石のブログ

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銀星石のエッセイブログ

底辺ハンターハトミ

 本作は『クエスト受付嬢ハトミ』の前日譚にあたります。







「13……14……15……」
 鬱蒼とした森の中で、黒髪で背の高い少女が、袋の中にある特産キノコを数えている。
 ハトミという名を持つ彼女は、防具に身を包み、背中にはライトボウガンを背負っていた。それを見れば、彼女がモンスターハンターだということが分かる。
「17……18……19……20。うん、ちゃんとあるわ」
 ハトミは依頼された量の特産キノコを採取したことを確認した。
 その時、背後の茂みから物音が聞こえた。振り返ると、赤と紫の鱗を持つ鳥竜種ジャギィが一匹いた。
「ひっ!」
 ジャギィと目が合ったハトミは恐怖で顔をひきつらせ、すぐに逃げ出した。
 普通、ジャギィ程度のモンスターなら新米でも倒せる。しかし、ハトミは背中のライトボウガンを構えようとはしなかった。
 そもそも、彼女が持つライトボウガンは知識のあるものが見れば、話しにならないほどの粗悪品であることが分かる。狙ったところでおよそ当たらないだろうし、最悪の場合は弾丸が暴発する可能性すらある。
 しかし、ハトミがジャギィから逃げているのは、武器が全く使い物にならないからではない。おそらくはまともな武器があっても逃げていただろう。
 恐ろしいのだ。モンスターが。
 そんな有様ではハンターとして完全に失格だ。もっと強い心構えを持っていなければならない。
 ハトミはそのことを十分に理解しているが、反省している暇はない。後でそれをするためにも、今は必死で逃げなければならなかった。
 ジャギィの気配がすぐ後ろにまで迫ってくる。だが、もうすぐ。もうすぐだ。あと少しで自分は助かる。ハトミはその一心で必死に走った。
 しかし、数分も走り続ければスタミナがなくなってくる。自分の意志とは無関係に、足の動きが鈍くなり始めた。
 恐怖が更に大きくなる。もうダメかとハトミは一瞬考えたが、背後の気配が急に遠ざかった。
 振り返ると、ジャギィがその場に留まっていた。前へ進もうとする素振りは見せているが、躊躇するように足踏みをしている。
 そして、ジャギィは恨めしそうな(少なくともハトミはそう感じた)視線を向けると、踵を返して森の中へと消えていった。
「た、助かった……」
 恐怖から解放されたハトミはその場に座り込んでほっと胸をなで下ろす。
 しばらくして落ち着いた後、ハトミは立ち上がって歩き出す。
 少し進むと、キャンプ地にたどり着いた。ハンターが狩りを行う際は、キャンプ地とその周囲に、モンスターが嫌悪する匂いをだす薬品を振りまく。ジャギィがハトミを諦めたのはそれが理由だ。
 ハトミはキャンプ地にある簡易ベッドに横たわる。迎えが来るまでまだ時間がある。それまでにハトミは体を休めようと思った。


 ハトミがハンターとなったのは今から三ヶ月ほど前のことだ。
 ハンターを志すものは多い。危険に見合う大きな見返りがあるし、安全な生活を脅かすモンスターたちを討伐する者たちは一種のヒーローだ。子供の将来の夢では人気が高い。
 しかし、ハトミにはハンターという職業に対するあこがれは全くなかった。むしろ、出来ることならばやりたくないとすら思っている。
 にもかかわらずハンターをしているのは、それ以外に働き口がないからだ。
 ハトミは、貧しい農村の出身だった。
 ある日、モンスターに農場を壊されて今年の収入が消えてしまった。そのため、ハトミは口減らしに家を追い出されてしまったのだ。
 追い出した両親については恨みはない。そうしなければ家族全員がゆっくりと飢え死にするのを待つだけだと、ハトミは納得していた。
 しかし、自分の境遇に納得できたとはいえ、それで道が明るくなるわけではない。着の身着のままで、ようやく近くで一番大きな街であるロックラックにたどり着いたはいいが、最低限の読み書きしかできない田舎娘に与えられる仕事は殆どなかった。
 ゆく先々でことごとく仕事を断れたハトミは、なかば自暴自棄な気分で、ハンターズギルドに行ってハンターになろうとした。
 だが、それは意外な結果をもたらした。
 なんと、簡単な面接だけでハトミはハンターになることを許されたのだ。
 唖然とする中、ギルドの人間によると、ようは危険な仕事をかわりにする者がいればいいらしい。毎年死者が出てハンターは常に人手不足。だから、「やる」と言う人間がいればあっさりと認められるのだ。
 さすがに、大型モンスターの討伐は資質が問われるが、薬草やキノコ、鉱石の採取は少し知識があれば誰にでもできる。危険地帯での仕事を覚悟しているのならば、だが。
 ハトミは農家の生まれであったので、精通しているとは言い難いが、薬草やキノコの知識は何も知らない者よりはあった。
 なので、見習い職人が練習に作った装備を無料で手に入れて、格好だけはそれらしくなったハトミは、モンスターと戦う必要のない採集クエストでその日の生活費を稼ぐようになった。
 この日も、ハトミは特産キノコを採取するクエストを受けた。途中、ジャギィと遭遇したが、なんとか死なずに済んだ。それがどれほど幸福であるかと、街に帰ってきたときに改めて実感した。
「うん、確かに特産キノコ二十個の納品を確認したわ。じゃあ、これが報酬ね」
 クエストの完了を確認した受付嬢のシエラは、ハトミに報酬を手渡す。
「ありがとうございます。では、私はこれで」
「あ、ちょっと待って」
 報酬を受け取ったハトミは自宅へ帰ろうとしたが、シエラに呼び止められる。
「私、もうすぐ昼休みだからさ、一緒に食べましょ。おごるわよ」
「え……で、ですが……」
「いいのいいの。そんな高い店で食べるわけじゃないしさ。だいたい、最近のハトミはちょっとやつれてきているわ。ちゃんと食べているの?」
 今のハトミは、一日の半分をクエストに、残り半分を訓練所での訓練に費やしている。より多くの報酬を得るためにはモンスター討伐クエストを受ける必要があるからだ。そのために、戦う力を身につけようとしている。
 しかし、半日しか働いていないとなると、当然収入も減る。そのため、借りいている住まいの家賃を支払うのが精一杯で、ハトミはほとんどの食事を無料で支給される携帯食料で済ませている。
 だから、申し訳ないと思いつつ、食事をおごってくれるというのは耐え難いほどに魅力的だった。
「それでは、お言葉に甘えます」
 シエラと一緒に言った場所は、安さが売りの大衆食堂だが、携帯食料よりもはるかにまっとうな食事だった。
「う、うう……美味しいです」
 柔らかいパン。汁のしたたる肉。新鮮でみずみずしい野菜。どれもここ数日は口にしていない。それらを食べるハトミは思わず涙が流れた。
「泣きながら食べるなんて……よっぽど貧相な食生活だったんだね」
 シエラが不憫そうにハトミを見ている。
 今のハトミにとってこれ以上の幸福は考えられなかった。
 しかし、そんな幸せな気分も唐突に消されてしまう。
「おい、見ろよ。ハンターが受付嬢にメシ食わせてもらっているぜ。情けねえな」
 不愉快な声がハトミに向けられた。見れば、立派な装備を身に付けた四人のハンターがこちらを侮蔑的な視線を向けている。先ほどの声も、彼らの一人が言ったようだ。
「まあ、そういうなって。ほら、アイツだよ。例の『底辺ハンター』だ。雑魚すら倒せなくて稼げないクズなんだから、それをいっちゃかわいそうだろう」
 別の男がフォローするような口調で、さらにハトミを侮辱する。
 さすがに、採集クエストばかりで、一度もモンスターを倒した実績がなければ、それなりに目立ってしまう。なので、一部の人格が悪い者たちからは『底辺ハンター』という不名誉な二つ名で呼ばれることがある。
 男たちがゲラゲラと下品に笑う。顔が赤いので酔っているとわかるが、だからといって仕方ないと思うことはできない。不愉快なのは不愉快だ。せっかく幸せな気持ちで食事をしていたのに、台無しにされてしまった。
「言わせておきな。ああいう輩は、人間だけじゃなくてモンスターすらも見下して、いつか痛い目を見る」
 シエラがハトミにだけ聞こえるように、耳元でささやいた。
 彼女の言葉は本当だった。それは数日後に証明される。
 ハトミはいつものように達成したクエストの報酬を受けるためにギルドに行ったのだが、そこで前に自分を笑ったハンターの一人がいた。
「……確かに、あなたのカードを受け取ったわ」
 彼はシエラに自分のギルドカードを渡していた。
 ギルドカードの返却。それはハンターを引退することを意味している。
 ハトミは彼の姿を見て息を飲む。引退しようとしているのに驚いたのではない。彼の右腕がなくなっていることに驚いたのだ。
 彼の顔は全く生気を感じられない。肉体だけではなく、心にも一生残る傷を負っているようだった。
 ふらふらと、幽霊のように彼はギルドから出ていく。その時にハトミの前を横切ったのだが、彼女のことはまるで目に入っていなかった。
「シエラさん、彼は一体……」
 ハトミは一体何事かと尋ねる。
「ロアルドロスの亜種を狩ろうとして、失敗したんだ。仲間は皆死んで、生き残ったアイツも、見ての通りもうダメだ。原種の狩猟に慣れていたのが、逆にいけなかったね」
 亜種は原種とは大きく生態が異なる。ロアルドロス亜種は原種と異なり毒を持っているのだ。
 しょせん毛や皮膚の色が違うだけと油断して死亡するハンターは決して少なくない。ハトミは訓練所でそう教えられていた。
 自分を侮辱した者たちが不幸にあったが、ハトミはそれを喜ぶ邪悪な気持ちはなかった。むしろ、一つの油断が死につながるこの世界が恐ろしかった。
 ハンターは命をかける仕事であることは理解していた。だが、その実例を目の当たりにして、知識的だけではなく、感覚的にも知った。
 自分は戦えるのかと、前よりも不安が大きくなった。
 背中のライトボウガンに意識を向ける。訓練所で武器の扱いは十分に学んだ。教官からも基礎は完成していると言われている。さすがに、今持っているのは使えないが、ちゃんとしたものを手に入れたなら、やろうと思えば出来るだろ。
 だが、ハトミは「しかし」と考える。いざその時が来たら、「やろう」と思うことが出来るのだろうかと。他の一人前のハンター達と同じように、引き金を引くことが出来るのだろうか。そう自分に問いかけてみる。
 訓練したのだ。多分、出来るだろう。ハトミはそう思ったしかし、心の片隅では、『多分』などという言葉が出てくる時点で出来ない証拠だという声もある。
 三ヶ月前までは、それと無関係な生活をしていたので、戦いは恐ろしい。しかし、それを乗り越えなければならない。
 ハンターは仕方なくなった職業だが、就いたからには一人前にならなければいけない。真面目なハトミはそんな風に考えてしまう。
「ほらハトミ。何をぼーっとしているの? 報酬を受け取りに来たんでしょ。いらないの?」
「え? あ! い、いります! いりますから!」
 自問自答の世界から我に帰ったハトミは、慌てて答えた。
「ハトミ、アイツらとアンタは名前も知らないような仲なんだ。無縁の他人がどうなろうと、深く考える必要はないのよ」
「はい……」
 確かにシエラの言うとおりだ。自分で自分の面倒をみるのですら精一杯なのだ。特に、ハンターは命懸けの仕事だ。薄情になる必要はないが、少なくとも今に限っては他人は他人と割り切ったほうが良い。
 その後、ハトミはシエラから報酬を受け取ると、その足で訓練所へと向かった。
 訓練所ではいつものように、ハンターとしての訓練を受けていた(もちろん訓練に使うのはいつも持っている粗悪品ではなく、施設から借りた練習用の武器だ)が、それが終わって帰ろうとすると、教官から呼び止められた。
「ハトミ、ちょっと待て」
「はい、なんでしょう?」
「もうお前も卒業だ。その後のことなんだが、良かったら猟団へ入らないか?」
「猟団……ですか?」
「そうだ。悪い話じゃないと思うが? そこは私の知り合いが団長を務めている。悪い場所じゃない」
 ハンターが複数人で行動する場合、四人が基本となっている。しかし、猟団はもっと大勢の集団だ。ギルドの規約で、一つクエストを同時に受注する人数は限られているものの、情報交換や資産の共有することによって様々な恩恵がある。
「私のような者を受け入れてくれるところはあるのでしょうか?」
 少し曖昧な言い方になる。ハトミは『底辺ハンター』と呼ばれる自分を仲間として求めるものがいるとは思えなかった。
「お前は俺が訓練した。あとは実績を上げるだけだ」
「ですが……」
 自分を育ててくれた人の言葉ではあったが、ハトミは自分に対して自分の実力を証明していなかったので、なかなか心が決まらなかった。
「彼の言うとおりだ。きみはもう弱くない」
 その時、後ろから男の声が聞こえてきた。
 そこには一人のハンターがいた。
 彼はハトミが見たこともない装備を身につけている。さらには力強い雰囲気の持ち主であり、ベテランであることが分かる。
「あなたは?」
「俺はレックス。フォーセスの団長だ」
「もしかして、貴方が先ほど教官がおっしゃっていた猟団の方ですか?」
「ああ、そうだ。今日は君が訓練している様子をこっそり見させてもらったが、悪くない。基本はちゃんとできているし、ハンターとして劣っている部分は見つからなかった」
 レックスはハトミをまっすぐ見て言う。そして、彼は手のひらを差し出してきた。
「君は調合に関する知識を持っていると聞いた。それはきっと俺たちの助けになってくれる。どうだろうか? フォーセスに入らないか?」
 シエラや教官のように、良くしてくれる人達は何人かいた。しかし、同じハンターで、しかも初対面の人から、ここまで誠実に接してきた人は始めただった。
 わずかだが、ハトミは自身を持ち始めた。
 同時に、流れのようなものを感じた。フォーセスに入って、ハンターとして新しい生活を始める。それが自分が乗るべき流れだとハトミは感じたのだ。
 いつまでも今のような生活を続けたくはなかった。別に贅沢をしたいわけではないが、まともな食事ができない生活など誰も望むわけがない。
「わかりました。未だ未熟者ですが、よろしくお願いします」
 ハトミはレックスと握手を交わし、フォーセスの入団を決意した。


 フォーセスは十数名のハンターが集まった大所帯で、使われなくなった屋敷を安く買い取って修繕し、そこを拠点に共同生活をしていた。
 やはりというか、入団してからの数日は落ち着かない状態が続いた。
 ハンターは下位、上位、G級の三階級に分けられるが、フォーセスの下位ハンターはハトミのみだった。他の団員たちは皆上位で、なかにはG級ハンターすらもいた。
 これほどまでの場所にいていいのかとハトミは自分が恥ずかしくなってきた。
 幸いなのは、団員たちが皆おおらかな性格だったことだ。ハトミに無茶な事を望まず、できることを精一杯していればいいと考えている。
 フォーセスに入団した直後のハトミは、いつものように採集クエストをこなしていったが、納品数よりも多く薬草やアオキノコを採取した。持ち帰って、フォーセスの団員が使うための薬品を作るためだ。
 薬品の調合は団員たちから重宝がられた。狩猟は命に関わる仕事なんで、それに必要とする道具は不用意に節約できない。時には、湯水の如き使わなければならない場面もある。だから、その道具を買うとなると結構な出費となる。
 しかし、ハトミが素材を採ってきてして調合すれば、タダ同然で手に入る。
 もともとその知識を必要とされての入団だったが、団員たちからの反応はハトミの予想以上だった。
 足手まといを言われず、「助かる」と言われるのが嬉しかった。それはハトミにとって大き励みとなり、薬草類の調合以外にも、シビレ罠や閃光玉といった、狩りを有利する道具の作り方も勉強するようになった。
「ハトミ、ちょっといいか?」
 夜、虫かごに入れた光虫の発する明かりをたよりに、調合書を読んで勉強していたハトミは、レックスに声をかけられる。
「何か御用でしょうか?」
「ああ。急な話で悪いが、クエストが入った。明日、ハトミにはドスジャギィを狩りに行ってもらう」
「私が……ですか?」
「そうだ。俺は出来ると思っているが?」
 一瞬。本当に一瞬だけだが、ハトミはこの話を辞退しようと思った。しかし、すぐに駄目だと考えを改める。
 住まいが変わって家賃を支払う必要がなくなり、金銭的余裕ができたので、ハトミは装備をまともな品質のものに買い換えている。それに、訓練所を卒業しても、屋敷の庭で毎日練習していた。
 そろそろ、ハトミは『底辺』ではないと証明するべきだった。
 ここで下がったら、何のために訓練を受けてきたのか分からない。一段でもいいから底辺より上に行く。乗った流れを自分から降りては駄目だ。
 ドスジャギィを倒して、ハトミは本物にならなければならない。
「わかりました」
 心を決めたハトミは、一言そういった。


 狩場はロックラックから約二時間ほど移動したところにある森だった。
 ロックラックのある地方は、険しい山脈を境界線に、砂漠地帯と森林地帯にわかれている。今では山脈に貿易用のトンネルが開かれているので、僅かな時間で別世界へと移動できるのだ。
 狩場に到着したら、キャンプを設営する。狩猟対象がなかなか見つからず数日にも及んだ時のために簡易ベッドを組み立て、モンスターが嫌悪する匂いを発する薬品をあたりの地面にまく。
 手早くキャンプ設営を終えたあと、ハトミは装備と道具の確認をする。どこも問題はなかった。
 ハトミはライトボウガンの重みを背中に感じながら、ドスジャギィの討伐へと出発した。
 森の中を歩きながら、ハトミは地図を見る。地図は、見やすいように線を引いてエリア分けされており、余白には各エリアがどうなっているのか注釈が書かれている。
 この場所は貿易街道沿いにありながら、モンスターにとって生息しやすい環境にあった。なので、安全のためにハンターが討伐しているのだが、倒しても別のモンスターが快適さを求めてここに居座る。
 そうして、新しいモンスターがやって来るたびにハンターがそれを狩り続けた結果、より効率的な狩りができるように、この場所についての詳細な地図が出来上がり、ギルドからハンターに配布されるようになった。
 地図を確認したハトミは、なるべく一筆書き移動できるようなルートを進む。
 途中、小型のモンスターを発見するが、討伐対象ではないので、ライトボウガン使いのハトミは、弾を節約するために極力戦いを避ける。
 しばらく進むと、川に出た。深さは足首が浸かる程度のなので、難なく移動することが出来る。
 上流の方には滝がある。横幅が広く水量が少ないので、水のカーテンがかかっているように見える。
 ハトミはまっすぐと滝の方へと歩き出す。地図によれば、滝のなかには洞窟があり、そこにドスジャギィがいることが多いのだ。
 頭から水をかぶるのを構わず、ハトミは滝の洞窟へと入る。
「いた……!」
 洞窟の奥の方にドスジャギィの姿を見つける。幸運なことに、眠っていた。
 これはチャンスだった。ハトミは慌てる心を必死になだめながら、なるべく音を立てないようにライトボウガンを構える。
 スコープを覗き、ドスジャギィの頭を狙う。当たれば一発で決着がつく。
 訓練所で習ったとおりに、ハトミは息を止めて呼吸による手のブレを抑える。
 そして、引き金を引いた。
 引き絞られていた弦が解き放たれる。弦に取り付けられた撃針が薬莢の雷管を叩いて火薬を爆発させる。矢ではなく弾丸を発射するのにボウ《弓》ガンと呼ばれるのはこの仕組みのためだ。
 銃身内の爆発によって銃口から飛び出した弾丸はドスジャギへと飛び……
(よし、これで!)
 しかし、わずかにそれて地面に当たった。
「!?」
 外した。ハトミは息を飲む。
 弾が耳元をかすめたので、ドスジャギィは目を覚ました。そして、すぐにハトミの方を睨む。
 必殺であるはずの一撃を外してしまった。ハトミはパニックになりかけるが、思いもしない幸運が無くなっただけで、自分はまだ逆境に陥っていないと冷静になるよう努める。
 しかし、失敗経験の少ないハンターがそれをするには少し無理があった。
 自分の方へと走ってくるドスジャギィに向かって、ハトミはライトボウガンを連射する。しかし、完全な冷静さがないために、全てが外れた。
 あと少しで接近される。ハトミは更に引き金を引いたが、弾丸は発射されなかった。ここでようやく、残弾数を数えずに撃ってしまった失敗を自覚する。
 ドスジャギィが大きく口を開けてハトミに飛びかかる。刃のように鋭い牙は触れるだけで肉が切れそうに見えた。
「くっ!」
 ハトミはとっさに前転して攻撃を回避する。
 その後、ハトミは洞窟の出口に向かって走りだす。
 仕切り直す必要があった。
 元々、ハトミはドスジャギィを狩るためのある準備をしていた。しかし、今は心のなかに焦りがあるのを自覚している。一旦距離をとって平常心を取り戻す必要がある。
 再び頭から滝の水をかぶって外に出る。少し遅れて、ドスジャギィも飛び出してきた。
 ハトミはそのまま走り続け、となりのエリアへと移動する。
 冷静さを取り戻しつつある。いよいよ準備してきたアレを使うときだ。
 ハトミは追いかけてきたドスジャギィの方へ振り向くと、ポーチから取り出した白い球体を投げつける。球体は相手の足元に当たると、割れて中から白い煙が出てきた。
 白煙に包まれたドスジャギィはハトミを見失う。
 その間に、ハトミは持ってきたシビレ罠を地面に設置し、ライトボウガンに弾丸を再装填する。
 シビレ罠から少し離れ、武器を構えながら相手が煙幕から出てくるのを待つ。
 数秒後、ドスジャギィが出てきた。
 心臓が大きく鼓動する。しかし、同じ失敗はしない。深呼吸をした後、先ほどと同じように息を止めて狙いを定める。
 ドスジャギィは一直線に向かってきた。
 これまで、ハトミはモンスターが自分に向かってくるたびに恐怖心を抱いた。
(さあ来なさい!)
 しかし今は違う。小さいながらも確かな勇気が胸に宿っている。
 ドスジャギィがシビレ罠にかかる。動きが止まった。
 その瞬間、ハトミの頭には『撃つ』の二文字以外は全てなくなっていた。
 引き金を引く。
 銃口から弾丸が飛び出す。
 そして、今度こそ弾はドスジャギィの頭を打ち抜いた。
 即死だったためドスジャギィは断末魔の悲鳴をあげること無く倒れる。
 その様子を、ハトミはスコープ越しに見ていた。それからわずかな間、構えを解くこと無く、そのままの姿勢で自分が倒した相手を見つめ続けていた。
 耐え難い息苦しさを感じた時、呼吸を忘れていたハトミはそのことに気付いて、大きく息を吐いた。
 倒した。自分一人の力で、今ようやくモンスターを初めて倒した。
 胸の奥から大きな達成感が押し寄せてくる。
 自分は今、間違いなくモンスターハンターだ。
 一つの実績を獲得したハトミは微笑を浮かべる。そこには、確かな自信が宿っていた。

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by ginseiseki | 2011-09-03 12:40 | 二次創作小説
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