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銀星石のブログ

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銀星石のエッセイブログ

モンスターハンター二次創作 クエスト受付嬢ハトミ 後編

 『クエスト受付嬢ハトミ』の後編です。







 今の私はハンターズギルドのクエスト受付嬢として働いていましたが、かつてはハンターとして生活していたのです。
 ハンターを志す理由は人それぞれですが、私の場合はといいますと、他に日々の糧を得る手段がなかったというだけなのです。
 食い扶持減らしのために、家から追い出された貧乏農家の末っ子に、仕事を選べるだけの教養などありません。毎年死者が出て、常に新しい人材が求められているハンターだけが唯一の選択肢でした。
 この大陸では比較的大きな街であるロックラックに、着の身着のままでたどり着いた私は、すぐにここのハンターズギルドで、ハンターの資格を得ました。
 低ランクハンターに斡旋されるクエストに限っては、誰でもいいから危ない仕事を肩代わりしてくれるだけでいいので、ハンターになる自体はそう難しいことではありません。教養のない田舎娘とはいえ、最低限の読み書きだけはできたので、簡単な面接を受けただけで、すぐにギルドカードが発行されました。
 後は武具屋の見習い職人が練習に作った装備を、ギルドから無償で提供され、格好だけはハンターになれました。
 しかし、武具を手に入れても、私はその使い方を知りません。なので、受領できるクエストは、モンスターと戦わなくても良い、薬草やアオキノコなどの採集のみでした
 一応、必要最低限の生活費を稼ぐことはできます。ですが、貧しい生活であることには変わりません。より多くの収入を得るためには、討伐クエストを受領できるようになる必要がありました。
 なので、私は簡単で安いクエストで食いつなぎつつ、訓練所に通ってモンスターとの戦う術を学びました。
 そしてギルドカードを発行されてから三ヶ月。訓練所のカリキュラムを修了し、私は真の意味でハンターとなりました。
 それから一年。才能のある方と比べて成長は遅いものの、着実に実力をつけて言った私は、青熊獣アオアシラや彩鳥クルペッコ程度なら一人で狩ることが出来る様になりました。
 そんなある日の事です。この手記を書いている時から二年前になります。
 ユケムリ村近くの森で、ジャギィやジャギノスといった、小型の鳥竜種が大量発生したので、これを駆除して欲しいというクエストが発布されました。
 討伐対象は手頃な相手であり、なおかつ収入も魅力的でした。私はこのクエストを受け、ユケムリ村近くの森へと行きました。
 クエストには私以外のハンターが数名参加していました。しかし、鳥竜種はかなり広範囲で発生していたので、全員で分担して狩ることになりました。
 この時の私は、もう見習いが練習で作った武具ではなく、ちゃんとしたものであり、誠実に戦っている限り、何の問題もなく小型鳥竜種を倒す事ができました。
 その後、ひと通り狩り終えた時の事です。キャンプ地に戻ろうとしたのですが、背後の茂みから物音が聞こえてきたので、私は素早くライトボウガンを構え、音のする方向へと銃口を向けます。
「た、助けてくれ」
 しかし、現れたのは私と共にクエストを受けたハンターの一人でした。
 彼は傷だらけでした。防具は砕け、どこかに落としたのか武器も無く、誰の目にも満身創痍だとうつる姿でした。
 応急処置をするため、私はポーチから回復薬を取り出しますが、彼の出てきた茂みから巨大な影が飛び出してきました。
 影は彼を無情に踏みつぶしてしまいました。
 その影こそが、私と深い因縁を持つ事になるジンオウガです。
 凶暴そうな眼で睨まれた私は、なかば本能的にライトボウガンを撃ちます。
 しかし、ジンオウガにとっては通常弾では小石をぶつけられた程度でしか無いらしく、私の攻撃を完全に無視して襲いかかってきました。
 とっさに避けようとしましたが、間に合いませんでした。ジンオウガの爪が私の足を引き裂きます。
 非常に恐ろしい思いでした。もはや過ぎ去った出来事をただ記しているだけなのに、あの時の恐怖が明確に浮かび上がってきてしまいます。
 足を負傷した私は逃げることはおろか、立ち上がることすらもできず、ただ無防備な姿をジンオウガの前に晒すしかありませんでした。
「嫌……死にたくない! 誰か、誰か助けてください!」
 頭の隅では助けを求めても無駄だと理解しつつも、これから死ぬ恐怖に、私は思わず声に出してしまいました。
 ですが、その時、私の身に奇跡が起こりました。
 横合いからの射撃にジンオウガの注意が私から外れ、その直後、スラッシュアックスを持った男性が走ってきたのです。
 男性は雄叫びと共にスラッシュアックスをジンオウガの頭に振り下ろします。その攻撃によって、音叉のようにまっすぐ並んで伸びた二本角の片方が砕かれます。
 そこで、私の意識は一旦途切れます。
 次に眼を覚ましたのは、ユケムリ村にある診療所のベッドの上でした。
 私を助けてくれたハンターは、ゲイリーさんとメアリーさんでした。この時にお二人と知り合ったのです。
 クエストに参加したハンターは私とスー兄妹を残して、全員がジンオウガに殺されてしまいました。
 その後、お二人から私が気を失っている時のことを聞かせていただきました。
 始め、ゲイリーさんとメアリーさんはジンオウガを倒そうとしていましたが、相手があまりに強かったため、私を連れて逃げてきたのです。
 あのスー兄妹が、敵を前に逃げたという事実に驚かれる方も多いでしょう。ですが、それだけあの時のジンオウガは強かったのです。事実、後にギルドからG級指定を受けています。
 その後、さほど怪我をしていなかったスー兄妹は新しいクエストを求め、ユケムリ村を後にします。
 私の方はといいますと、足に負った怪我の後遺症でハンターを辞めなければなりませんでした。職を失い、途方にくれてしまいましたが、ユケムリ村のギルドマネージャーのご好意で、クエスト受付嬢として働かせていただくことになったのです。
 これが私とG級ジンオウガとの因縁です。


 私が公衆浴場でメアリーさんと話す場面に戻ります。
「あのジンオウガと初めて戦った後、私と兄さんは初めて負けて、すごく悔しかった。自分たちの未熟さを思い知らされたよ。ハンターの仕事がトントン拍子で進んでいて、少し調子にのっていたんだ」
 この時、メアリーさんは私にそう言いました。
「実はね、私も兄さんもたまたま言う機会がなかったからハトミに教えていなかったけれど、私達がG級ハンターを目指したのは、あのジンオウガともう一度戦うためだったんだ」
「やはり、そうでしたか」
「知っていたの?」
「確証はありませんでした。ですが、あえてユケムリの村付きになったという事で、なんとなくそうなのだろうとは思っていました」
「そう」
 メアリーさんは両手で湯をすくい、顔を洗うと、ご自身の決意を口に出しました。
「G級ハンターになって、挑む資格を手に入れた。武器も防具も、手に入る中で最高の物を用意した。だから、近いうちに私と兄さんはアイツと戦う」
「私は何もできませんが、せめて勝利を祈っていますよ」
「うん。ありがとう」
 この時、メアリーさんには伝えませんでしたが、私がこの村にいる理由も同じようなものでした。
 足が不自由だから別の土地に移るのは苦労するとはいえ、やろうと思えば出来無い事ではありません。にもかかわらず、この村に永住すると決めたのは、未練があったからです。
 スー兄妹ほどではないとはいえ、私も一端のハンターです。G級ジンオウガに敗北したのは心の中でしこりとなって残っていました。
 ですが、私にはもはや戦う事はできません。ですから、G級ジンオウガと遭遇した場所に近いこの村にいれば、因縁の相手が倒された時に、それを知る事が出来るかもしれない。そんな思惑があって、この村で暮らしていたのです。
 そして、この日の翌日に、私は因縁の決着を目の当たりにしました。


 それはその日のお昼の時です。
 昼食の後に、ニボシさんの作った新しいドリンクの味見をしていた時に、村の木こりが森でハンターの遺体を見つけたという知らせがギルドに寄せられました。
 私はたまたま手が空いていたので、亡くなったハンターの身元を確認するため、村の診療所に向かいました。
 そこで私は驚きました。亡くなったハンターというのは、前日にギルドを訪れた、ローゼンベルグ君だったのです。
 片腕は失われ、胸には目を背けたくなるほど痛々しい引掻き傷がありました。
「主な死因は胸の傷だが、とこどころに感電による熱傷がある。死ぬ前に電光虫の大群に襲われたか、あるいは電撃を使うモンスターに殺されたと思われます」
 診療所のお医者様によると、それがローゼンベルグ君の死因でした。
 そして、彼の遺体が発見されたのは、私を襲ったあのG級ジンオウガと遭遇した場所の近くでした。
 この時、私は過去の経験から、まったく根拠はありませんでしたが、彼を殺したのはG級ジンオウガかもしれないと強く思いました。
 そして、そんな私の考えが呼び寄せたかのようにあの事件が起きるのです。
「ジンオウガだ! ジンオウガが村を襲いに来たぞ!」
 外からそんな叫び声が聞こえてきたのを記憶しています。
 外に出て当たりを見渡してみると、遠くで轟音と共に電光が走るのを目にしました。
「ハトミ!」
 そこに、ゲイリーさんとメアリーさんが現れました。お二人とも初めて見る装備を身につけており、おそらくはそれがジンオウガのためだけに用意したものだったのでしょう。
「ゲイリーさん、メアリーさん。村にジンオウガが来たようです」
「ああ、俺達も聞いた。もしもあいつならば、予定より少し早いが、決着をつけてくる」
「お気をつけて」
「心配しないでハトミ。必ずジンオウガを倒すから」
 お二人はそのままジンオウガが暴れている場所へ走って行きました。
 私の方は村の方達を地下避難所へと誘導するお手伝いをする事にしました。
 辺境の村は常にモンスターから襲撃される危険にさらされているため、対抗策として村付きのハンターを雇うだけでなく、地下避難所も建設しているのです。
 村をモンスターに襲撃されるのは初めてのことでしたが、半年に一度行っていた避難訓練のおかげで、致命的な混乱もなく避難が進んでいきました。
 ひと通り誘導し終え、私も避難所へ向かおうとした時でした。近くの家を打ち砕いてジンオウガが目の前に現れたのです。
 この瞬間、私は強い既視感を持ち、そして片方が砕けたジンオウガの角を見た事でそれは確信に変わりました。
 間違いない。二年前のG級ジンオウガであると。
 私はすぐに逃げようとしました。しかし、不自由な右足のせいで思うように走ることができず、足をもつれさせて転んでしまいました。
 立ち上がろうと上体を起こした時、ジンオウガの凶暴な瞳と目が合いました。あの時と全く同じ恐怖が蘇ります。右足からあるはずもない痛みすらも感じてしまい、逃げなければならないのに金縛りにあったように動けなくなったのです。
 その時、ゲイリーさんとメアリーさんが現れました。
 メアリーさんがライトボウガンで威嚇射撃をし、その間にゲイリーさんがジンオウガの背中に登ります。
 ゲイリーさんはスラッシュアックスを斧から剣の形に変形させ、それをジンオウガに突き刺します。
 突如の攻撃にジンオウガはゲイリーさんを振り落とそうとしますが、そうなる前に彼は次の攻撃を行ないました。
 スラッシュアックスから小爆発が起こり、ジンオウガの鱗を吹き飛ばしました。
 属性開放突きと呼ばれる攻撃です。スラッシュアックスは特殊な素材によって、刃にある種の力を伝導させており、それを一気に解放するのです。
 衝撃によりゲイリーさんの体が空高く上がりますが、仮にもG級ハンターである彼は、自分の行った攻撃で傷つくような愚かな失敗はしません。装備の重さを感じさせない体捌きで見事に着地しました。
 続けてメアリーさんが撃った弾丸がジンオウガに命中し、一拍の間の後にゲイリーさんの属性開放突きと同等の爆発が起こります。
 硬い鉄製の弾体の中に、小さな爆薬を仕込んだ徹甲榴弾は、確実な痛手をジンオウガに与えていました。
 ジンオウガは二度の爆発を伴う強烈な攻撃を受けましたが。まだ死んでいませんでした。普通の動物ならばもはや致命傷であるにもかかわらず、なお生きているのがモンスターの恐ろしさです。
 とはいえ、重傷を受けているには変わりません。ジンオウガは目に見えて弱っており、あと一息で討伐できそうでした。
 しかし、そこで思いがけない事態となりました。
 ジンオウガは今まで戦っていたスー兄妹ではなく、私に狙いをつけて、電光虫の力を借りた雷球を放ってきたのです。
 それはまともな実力を持ったハンターならば、注意していれば避けることが出来る程度の攻撃でした。ですが私はそれができなかったのです。
「危ない!」
 その時、メアリーさんが私をかばって、雷球を受けてしまいました。
「メアリー! くそ! このやろう!」
 ゲイリーさんがジンオウガに斬りかかろうとします。
 妹が倒れて若干冷静さを失ったゲイリーさんと、死の淵に立たされて死に物狂いとなったジンオウガの間に、明確な差が生まれてしまったのでしょう。ジンオウガは体を回転させて尻尾をゲイリーさんに叩きつけました。
 強い衝撃で吹き飛ばされたゲイリーさんは、半壊した家屋に叩きつけられ、そのまま瓦礫の中に埋まってしまいました。
「ゲイリーさん! メアリーさん!」
 名前を呼んでもお二人からは返事が帰ってきませんでした。G級ハンターですから、死んではいないでしょうが、気を失って戦えないのは間違いありませんでした。
 足を引きずりながらゆっくりとジンオウガが近づいてきます。
 万事休すかと思ったその時、私の目にメアリーさんのライトボウガンがうつりました。そして、彼女の手には武器に再装填するつもりであったのだろう、徹甲榴弾が握られていました。
 この時の私が何を考えていたのか、自分でもよく覚えていません。ただ、それを行うことがはっきりと明らかになっていたのは確かでした。
 見えない縄として体を縛っていた恐怖心がかすみのように消えます。ライトボウガンの銃把を握り、薬室にあった空薬莢を排出した後に、メアリーさんが持っている新しい徹甲榴弾を装填しました。もう二年も武器を触っていなかったにもかかわらず、一連の動作はスムーズに行うことが出来ました。
 そして、ライトボウガンの銃口をジンオウガの頭に照準した時、私の心理状態はかつてハンターであった頃に戻っていました。
 息を止めて呼吸による狙いの揺らぎを抑えます。
 これを外したら自分は死ぬ。しかし、その事実に対して、の私は恐怖心ではなく、単なる緊張感を抱いただけでした。
 客観的に見れば、単に足が不自由なクエスト受付嬢がライトボウガンを構えているだけでしょう。ですが、実際に立ち上がる事はできなくとも、目の前のジンオウガに立ち向かう勇気と闘争心を持っていました。
 この瞬間に限って、私はモンスターハンターに戻っていたのです。
 引き金を引き、ライトボウガンの銃口から弾丸は放たれます。
 弱ったジンオウガは避けるができず、弾は胸部に命中しました。そして、私にとって長く感じた一瞬の間の後、体内で徹甲榴弾が爆発し、致命傷を与えます。
 力尽きたジンオウガはゆっくりと倒れ、宿主の死を知った電光虫達が散らばっていきます。
 瓦礫が崩れる音がしたので、そちらの方を見ると、目が覚めたゲイリーさんの姿がありました。
「ハトミ、もしかして、お前がジンオウガを倒したのか?」
「はい……と言っても、メアリーさんの武器を借りて最後の一撃を与えただけですが」
「そうか」
 続いて、メアリーさんも目を覚まし、倒れたジンオウガの亡き骸を目にして驚きの声を上げます。
「ジンオウガが倒されている!? 兄さんがやったの?」
「いや。情けないことだが、お前が倒れた後に、俺も攻撃を受けて気を失った。トドメをさしたのはハトミだ」
「すみません、メアリーさん。勝手にあなたの武器を使ってしまいました」
「いや、気にしなくていいよ。ハトミがそうしなければ、みんなやられていたからね」
「ありがとうございます」
 メアリーさんの肩を借りて立ち上がり、私はお二人と共に動かなくなったジンオウガを見つめます。
 その時、私には自分の心がどこか軽くなったように感じました。因縁の相手を倒したことで、私はある種の精神的な重石から解放されたのです。
 これで、私とG級ジンオウガとの間にあった因縁は決着を迎えました。そして、もしも何かの縁があって、この手記、あるいは私小説を私以外の誰かが目にしているのならば、最後までお読みいただきありがとうございました。

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by ginseiseki | 2011-08-29 21:49 | 二次創作小説
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