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銀星石のブログ

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銀星石のエッセイブログ

異説・PSPo2インフィニティ 第4章Act1

 今回はアレンジ成分が強めなので、ご注意ください。







第4章 運命の選択

 クラッド6はリゾートコロニーであり、内部はいくつかのブロックに分けられ、およそメジャーな行楽を楽しめるようになっている。
 ナギサはそのひとつである、海岸区画に訪れていた。エミリアの提案で、ルミアやユート達と海水浴を楽しむことになったのだ。
「しかし、鳩美はいいのか?」
 他の者達は、ナギサを含めてみな水着姿なのだが、鳩美だけは私服であり、赤いワンピースに、同じ色のつば広帽という格好だった。
「ええ。泳ぎは得意でないですし、あまり肌を晒したくないので。私は気にせず、遊んできてください。それに、今のナギサさんには気分転換が必要ですよ」
 ナギサは隠していたつもりだが、鳩美には前に欠片が見つからずに落ち込んでいたのを見ぬかれていた。
 加えて、今はワイナールもいない。前の一件で眠りについた後、今にいたるまでずっと目を覚まさないのだ。
 それがひどく寂しかった。自分が体験してきた時間は、一人でいた時の方が圧倒的に多く、孤独には慣れているはずだったのに。人にとって、一人でいる時はある意味異常なのだというのを改めて思い知らされた。
「ふー、よく寝た……」
 その時だ。ワイナールが目を覚まして姿を表した。表情には出なかったが、ナギサは確実にそれを嬉しいと思った。
「……ってあれ、なにここ! どういうこと! ナギサちゃん、どうして水着なの!?」
「あ、あんまり見るな! 寄るな!」
 ワイナールがあまりに間近でしげしげと見るものだから、ナギサは思わず胸を両腕で隠した。
「いきなり無茶言うねえ」
 何が無茶だというのか。ナギサは少し理不尽さを感じた。じろじろと見るほうが悪いのだ。鳩美があまり肌を晒したくないと言ったのが少しわかった。
「いやーしかし、きつけしては最上級のものだったよ。いや、待てよ……もしかしてぼくは寄りにもよって着替えている時にねちゃってたの? うわー、くそ!! 一生の不覚!!」
 ワイナールが聞き捨てならない事を口走った。
「……お前、いつも私が着替えている時は、気をつかって姿をけしているんじゃなかったのか?」
 ふつふつと怒りが湧いてきた。
「……まあ、それはそれとして、水着でバカンスとは、しゃれてるね。エミリアのお嬢ちゃんが提案したのかな?」
「話をそらすな。流石に私も多少の羞恥心は持っている。お前は、いつも見ていたと、そう言うのか?」
「……はー、それにしてもいい天気だねえ」
 ワイナールは全く目を合わせようしない。ナギサは、その態度を肯定として受け取った。
「鳩美、旧文明人の滅ぼし方を教えて欲しい」
 カムハーンと戦った彼女なら、実体のないワイナールに目に物見せる方法を知っているかもしれなかった。
「簡単ですよ。『死ね』と強く念じて斬れば、実体がなくても殺せます」
 いつもの微笑で鳩美はさらりと言った。冗談なのだろうが、何故か本当に実行した経験があるかのような、奇妙な説得力があった。
「なんだよー、いいじゃんかー。減るもんじゃないんだしさー」
「減りますよ」
 鳩美が唐突に言う。
「えっ?」
「男性がひとり減ります」
 彼女は微笑んではるが、明らかな怒りがあった。
「ワイナールさん」
「はい! もうしません!」
 あの笑顔に恐怖を感じたのか、素直に謝罪した。
「まったく、ワイナールもこれに懲りて覗きなど……」
 その時、ナギサは欠片の気配を察知した。
「ワイナール、今の感じは……」
「うん、一瞬だけあったね。もう感じないから、本物かどうか、わからないけど」
「……そうか」
 またモトゥブの雪山と同じく、勘違いかもしれない。そもそも、欠片がリトルウィングのどこかに隠れているのならば、とうの昔に察知しているはずだ。
「おーい、ナギサー! 何ぼーっとしているの、一緒に遊ぼうよー!」
 向こうでエミリアがボールを持って手招きをしている。
「行ってくると良いですよ」
「ああ、そうだな。せっかくだから楽しんでくる」
 気のせいだといいのだが。ナギサはリトルウィングに愛着を持ち始めていた。だから、ここが欠片の被害にあってほしくなかった。
 だが、今はそれを忘れて楽しもうと思った。自分一人が暗い顔をしていたら、周囲の者達も気分が悪いだろう。
 エミリアたちとビーチバレーなる球技をした。ルールを教えてもらいながらだったが、それでも楽しかった。
 他には競泳もした。ナギサは一位になったが、勝ったことよりも、体をおもいっきり動かすのが楽しい。これは、全力を出して戦った時には無かった感覚だった。

 あまりに楽しくて、気がついたらすでに夕方の時刻になっていた。
 ナギサはいつもの服に着替えており、海岸から見える風景を眺めていた。鮮やかな夕焼けと、その色に染まった海原が見える。
 美しかった。目の前の風景は宇宙コロニー内に作られた人工空間だが、中にある動植物は紛れもない本物だ。入れ物に収められているという違いがあるだけで、限りなく写実的な絵画と考えれば、これはこれで十分に美しい。
 他の皆は先に帰っている。ナギサが一人で残っているのは、最後に目の前の風景を目に焼き付けておきたかったからだ。
 ナギサはグラール中を旅して来た。もしかしたら、この夕焼けと同じか、それ以上の風景を目にしていたのかもしれない。それをきちんと覚えなかったのが残念で仕方なかった。
「楽しかったかい? ナギサちゃん」
「ああ」
 ワイナールの質問に、ナギサは正直に答えた。この一日は、絶対に忘れたくない。
「私は常識に欠け、皆に迷惑をかけてばかりだったな。それでも、皆は私に優しくし、仲良くしてくれた。本当に感謝している」
 一度戦ったのにもかかわらず、信用してくれたヒューガ。ほんの僅かな時間しか共有していないのに、いざという時は助けると言ってくれたタイラー。そして、母か姉のように背中を守ってくれる鳩美。ナギサはこれまで出会ったすべての人物に感謝の気持ちがあった。
「けど……」
「けど?」
「ワイナール。どうして皆は、私に優しくしてくれるんだ?」
 ナギサは、理由も無く他人に優しくする人というのが信じられなかった。
「これまで出会った人たちが特別ってわけじゃない。これが普通なんだよ、ナギサちゃん」
「利益が入ってくる保証も無しに? なぜ?」
「なぜって言われても、だってそれが人だからとしか言いようがない。いろんな事情や感情が重なって、時には争ったりしちゃうけど、人は集団で生活する生き物だ。だから人は他人に優しくするんだ」
 ワイナールの言葉にナギサは少しだけ納得できた。確かに、社会という仕組みを維持するのを最優先にするならば、無償の優しさは必要だ。
「だとしたら、これまで一人で生きてきた私は、どうしたらいんだ?」
「好きなようにするといい。これはきみの人生なんだから。ぼくは助言しか出来ない」
 ただ一つの使命の為だけに進んでいた時は、それ以外は何も考えていなかった。不安は何もなかった。ある種の安息すらあった。しかし、いざ歩みを止め、自分の生き方というのを改まって考えてみると、とたんにどうすれば良いのか全くわからなかった。
「なあワイナール、私はどうしたいんだ?」
 自分自身でしか理解出来ないことを、彼に訪ねても仕方ないのだが、それでも聞かずにはいられなかった。
「覚えているかな、ナギサちゃん。最初に会った時にぼくは言ったよね。きみは幸せにならなきゃいけない、って」
「ああ、覚えている」
「どうしたらいいか、わからなくなったのなら、それをじっくりしっかり考えてみるといいよ。考えて、悩んで、苦しんで、そして答えを出してみるといい。自分が何をするべきなのか、何をしたいのか。正解となる答えはいくつかあるのだろうけど、それは自力で考える必要がある」
「私のしたいこと、か……」
 いつも軽口や冗談を言うワイナールがこんなにも真剣な表情なのだから、それはとても重要な事なのだろう。
 ナギサは自分のこれからを考えようとした。だが、すぐにそれを止めた。自分には使命がある。だからそれは考えてはいけない。使命以外を考えて未練を持ってしまうのを強く恐れた。
 今日という日さえ覚えていれば、あとはもう必要ない。これで満足するべきなのだと、強く思い込んだ。
 綺麗な夕焼けは十分目に焼き付けた。そろそろ帰ろう。ナギサが海岸から立ち去ろうとしたその時、あたりからけたたましい警報が鳴り響いた。
『ただいま、海岸地区より環境維持に深刻な影響をもたらす異常事態が確認されました。該当地区にいる方は、速やかに最寄りのシェルターへ非難してください。繰り返します……』
 避難を呼びかけるアナウンスが聞こえてくるが、ナギサはそれどころではなかった。
「ワイナール!」
「ああ、この強さなら勘違いじゃない。欠片がこの近くにある」
 警報が鳴るのとほぼ同じタイミングで、ナギサは欠片の気配を察知したのだ。
「だが、昼間は全く感じなかった。なぜ、今になって」
「それを考えてもしかたない。とにかく欠片をさがそう、ナギサちゃん」
「ああ」
 ナギサは欠片の気配を感じる方向へと走りだす。だが案の定、欠片によって変異させられた生物が行く手を阻んだ。
 海岸地区で放し飼いにされている生物は、気性の大人しい、人を襲わない種ばかりだが、欠片によって変位させられた結果、鋭利な爪が生えたり、巨大化したりと、危険な生物へと変貌していた。
 ヤシの木の影から変異生物が一体現れ、ナギサに立ちはだかった。
「邪魔をするな!」
 ナギサはナノトランサーから愛用するソードを取り出して、敵をまっぷたつに斬り捨てる。
 知性のない動物に叫んでも意味はないのだが、ナギサは少し感情的になっていた。美しい風景として記憶したこの場所を荒らされたくなかったのだ。
 一刻も早く欠片を見つけ出す。ナギサはいつも以上に気迫を出して戦っていたつもりだが、実際は半ば焦っているようなものだった。冷静であれば何の問題もない攻撃も、何度か受けてしまいそうになる。
「ナギサちゃん、少し落ち着こう。一人じゃだんだん厳しくなってきた。鳩美たちと連絡を取って合流した方がいい」
 見かねたワイナールがナギサに忠告する。
「だが、その間に変異生物が暴れてこの場所を壊してしまったら……!」
 しかし、ナギサは自分に宿る助言者の言葉に耳を傾けなかった。
「だけど、ナギサちゃん……」
「まて、ワイナール。これは……欠片だ! すぐ側に欠片があるぞ」
 欠片は海のほうから感じ取れた。すぐ近くに桟橋があったので、ナギサはその上を通る。
 桟橋の先には円形の人工浮島があり、ナギサはその上から海の中を覗き込もうとする。しかし、光が海面で反射してよく見えない。
「どこだ、どこにあるんだ!?」
 目をこらして必死に探すが、なかなか見つからない。感覚的には眼と鼻の先くらいの距離なのに。
 上からでラチがあかない。いっそ海に潜って探そう。そう思ったナギサは、人工浮島の手すりから身を乗り出そうとする。
「まって、ナギサちゃん! 海に何かがいる!」
 ワイナールが叫ぶ。みれば、彼の言うとおり、海の中に大きな影が見えた。
 影が海中から飛び出して人工浮島に着地する。
 大型の変異生物だ。甲殻類が変異したのか、カニのようなハサミと、エビのようなしっぽを持っている。
「なんだ、この感覚は。まるで、コイツそのものが欠片のようではないか」
 初めての事態に、ナギサは戸惑う。欠片の影響を強く受けた変異生物は、ある程度欠片に近い気配を感じることが出来た。だが、この辺に生物はこれまでとは比較にならないほど強い気配を感じる。
「ナギサちゃん、たぶんコイツは欠片を飲み込んでしまったんだと思う。生物の体内に取り込まれたから気配が遮断されたんだろうね。そして、欠片は少しずつコイツを侵食して、ついさっき完全に同化しきった。だから察知できるようになったんだと思う」
「なるほど、どうりで変異生物を欠片と全く同じように感じるわけだ。となるとワイナール、コイツは欠片と全く同じ力を……」
「ナギサちゃんの予想通りだと思う。他の変異生物はコイツに変異させられたんだ。欠片がクラッド6に現れたにもかかわらず、変異現象が今まで発生しなかったのは、体内に取り込まれたことで、変異の力はコイツにしか及ばなかったためだ。けど、完璧に同化したせいで他の生物を変異させられるようになったんだと思う」
「ならば、元凶を倒せばこの一件は終わるわけだな」
 ソードを構え、ナギサは果敢に変異生物へと勝負を挑む。
 変異生物はハサミを振り回して攻撃してきた。物を挟むという本来の使い方とは異なるが、重いものを叩きつけるというのは、シンプルすぎるが、だからこそ避ける以外に対処法がない。
 ハサミは見ただけで確実に人間の体重以上の重量があると分かる。あれを受けてしまったら、確実に重傷を負う。敵を早く倒さねばと焦っているナギサだが、その程度の判断力はまだ残っていた。
 振り回される巨大な二つのハサミをかいくぐり、背後を取る。巨大生物はなるべくナギサを正面にとらえようとするが、大きすぎる体は鈍重だった。
 ナギサは柄の引き金を引いて、刃の背からフォトンエネルギーを噴出させる。変異生物は分厚い外殻を持っているが、殻つなぎ目を狙って、推力を加えた攻撃ならば通用するはずだ。タイミングや刃の角度は十分。強烈な痛手を与えられると確信していた。
 しかし、変異生物はその場で数メートル真上に飛んだ。そのせいで、ナギサの攻撃は空振りに終わる。
 変異生物が着地し、その衝撃で人工浮島は激しく揺れた。海に投げさされないよう、ナギサはその場に這いつくばって耐える。海水を頭からかぶって、口の中が塩っ辛くなる。
「ワイナール! 力を貸してくれ!」
「わかった。一気に仕留めよう」
 ナギサが眼帯を外すと、ワイナールから送られてくる力が全身に浸透した。これを使うのは、鳩美と初めて出会った時以来だ。
 変異生物がナギサを潰すためにハサミを叩きつけてきた。だが、倍加した身体能力でその攻撃をいともたやすく避け、その上反撃でそのハサミを斬り落とした。
 変異生物が激痛で悲鳴をあげる。その声はおよそ生物とは思えないものだった。
「よし、後一撃でも与えれば!」
 敵の体の一部を欠損させる事が出来た。天秤は大きく自分側に傾いているとナギサは思う。だが、直後にそれが油断だったと思い知る。
 変異生物が口から泡を吐きつけてきた。それがナギサに触れて弾けると同時に衝撃波を浴びせてきた。まるで手榴弾だ。
 痛手を受けたナギサは倒れ、変異生物は好機とばかりに、ハサミを振り下ろす。
 痛む体を動かし、ナギサはそれを避け、変異生物と距離を取る。
「あんな攻撃をしてくるとは」
「アレ以外にも、隠し玉があるかもしれない。慎重に行こう。さっきのは少し焦り過ぎだよ、ナギサちゃん」
「ああ、分かった」
 いくら自分が好きになった風景を守りたいからと言って、元凶を確実に倒せないのでは意味が無い。すでに鳩美達も動いている。戦っているのは自分だけではない。ナギサは反省した。
 まだ身体能力を倍化できる時間は残っている。慎重に戦っても十分に足りるはずだ。
 変異生物が殺傷力のある泡をまた吐いてくる。だが、冷静になれば別に対した攻撃ではなかった。泡のスピードは緩慢で、不意打ちでもなければ絶対に当たらない。
 泡の弾幕をかいくぐって、敵に接近する。変異生物は片方だけになったハサミを振るって迎撃しようとするが、ナギサは高く跳んで回避した。
 ナギサは、もう一度ソードの引き金を引く。推力と落下速度を上乗せした強烈な唐竹割りを、変異生物の頭部に向かって叩きつける。
 その一撃で勝敗は決まった。変異生物は一度けいれんした後に全く動かなくなった。
「ナギサさん!」
 後ろから声をかけられたので振り向いてみると、そこには鳩美がいた。
「鳩美か」
「ナギサさん、この変異生物は?」
「この騒ぎの元凶だ。コイツは欠片を取り込んで同化し、欠片と同じように周囲の生物を変異させていた。私が倒したから、もう変異生物が現れることもないだろう」
「鳩美、そちらの方は?」
「リトルウィングの社員たちが変異生物の討伐を行っています。ナギサさんが元凶を倒したのならば、いずれ全滅させられるでしょう」
 その時、ナギサが倒した変異生物の死体に変化が現れた。体組織が死滅し、まるで砂になったように崩れ落ちる。そして、その中から欠片が現れたのだ。
 欠片はこれまで見つけてきた物の中で最も小さかった。これほど小さければ普通の生物が飲み込んでしまうのも当然だ。
「一〇七個の欠片か……」
 欠片の数は全部で一〇八。これを回収すれば、後はひとつだけだ。
「鳩美、一つ聞いていいだろうか」
「なんでしょう」
「もしも、私のやっていることが危険な……いわゆる悪に通じる行為だとしたら……貴女はどうする?」
「申し訳ありませんが、私はナギサさんがそんなことをしないと信じていますので、質問には答えられません」
「信じる……か。重い言葉だな、それは……」
 これまでの経験の中で、信頼の重要性は十分に知った。信頼は集団生活をする上で、人と人をつなぐ命綱だ。
「あのさ、ナギサちゃんさあ……!」
「言うな、ワイナール」
 どういうつもりで、鳩美に先程の質問をしたのか、ワイナールは理解していたようだ。だが、ナギサは何も言わないよう命じる。
「欠片を回収する。あとを頼むぞ、鳩美」
「ええ」
 ナギサは欠片を回収する。いつものように意識を失って鳩美に抱きとめられた。

 Act2へ続く

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by ginseiseki | 2011-04-03 16:59 | 二次創作小説
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