銀星石のブログ

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銀星石のエッセイブログ

異説・PSPo2インフィニティ 第3章Act1

 今回のオリジナル要素は少なめです。ただ、これ以降は大きめの改変を行う予定です。

 また、今回は文字数制限に引っかかったので前後編に分割して投稿します。






第3章 ただ一つの命を

 リトルウィングに来てからは、新しい体験の連続だった。それらはごく普通の出来事ではあるが、それだけナギサは日常的な生活を送っていなかったのだ。
 ナギサはクラッド6で有名なカフェであるものを食べていた。
「美味しい……!」
 プリンという初めて口にする食品の味に、ナギサはこんなにも美味しい物があるのかと驚いた。
 ナギサは今まで携帯食料しか口にした事がなかった。それは安価で栄養豊富で、保存もきく。栄養補給のみを考えるならば最適な食品だが、所詮それだけの物でもある。
 食べるごとに甘さが口の中に広がり、なにか言葉に出来ない充足感が沸き起こってくる。
「おいしいぞ! ボクが今まで食べてきたものの中で、一番おいしいんだからな!」
 ナギサの対面には、今の時代には珍しい手織りの民族衣装を身に付けた少年が座っている。彼はナギサがプリンの魅力を知ったのを喜んでいた。
 彼はユート・ユン・ユンカース。第3惑星モトゥブで、機械文明に頼り切らない、自然と共存した生活を送っている、カーシュ族の少年だった。
 ユートは亜空間事件で鳩美と共に戦ったことがあるという。
 事件の後、彼は故郷に帰ったらしいのだが、再びリトルウィングにやってきたのはクラウチが呼んだからだ。なんでも、次の欠片に関する手がかりを持っているというのだ。
 さあ話を、と思ったのだが、ユートはここのプリンに目がなく、まずはそれを食べてからということになった。
 ユートがプリンを食べる姿を見て、ナギサも興味がわき、自分も食べてみたらそのとおり美味しかった。
「ユート君、そろそろお話を聞かせてもらえないでしょうか?」
 プリンの味に夢中だったナギサだが、鳩美が話を切りだして本来の目的を思い出す。
 しかしプリンは食べ続ける。鳩美が話を聞いてくれるだろうから大丈夫だろうとナギサは思った。
「んー? あー、ああ! このまえエミリアに相談したやつだな!」
「何かあったのですか?」
「最近、ぼくの修行場の奥のほうから、いやーな感じがするようになったんだ」
「嫌な感じ、ですか」
「それと同じぐらいの時から、見たことのないバケモノが、いっぱい出てくるようになったし、なんなんだろうな、あいつら」
 プリンを食べながら、当たりかもしれないとナギサは思った。ユートは優れた感覚力を持っており、普通では見えないはずのワイナールも見えていた。
「……あの、すまない。ちょっといいだろうか?」
 ナギサは鳩美に声をかける。
「どうかしましたかナギサさん。なにか質問でも?」
「この、プリンというのをもう一個……」
「…………」
 鳩美の表情が固まる。
 かなり大きめのプリンを一つまるまる完食したが、ナギサはもっと食べていたかった。
「ぼくも! ぼくももう一個たべるぞ!」
「ナギサさんもユートくんも、それで最後にしてくださいよ。食べ終わったら出発します」
 店員に注文して、プリンが来るのをまつ。
「そうだ、ナギサさん。失礼ですが、貴女の名字を教えていただけませんか。護衛の依頼主の登録情報として必要なのです」
「ああ、なるほど。だが、すまない、その質問には答えられない」
「何か重大な理由でも?」
「別に秘密というわけじゃない。何を隠そう、私が自分の名字を覚えていないからだ」
 ナギサは胸をはって答える。
「……絶対に威張るところじゃないからね、そこ」
 それまで黙って話を聞いていたワイナールが、なにやら肩を落として呆れたような表情になる。彼は時々理解出来ない反応をする。
「では、ワイナールさん……」
「あー、ぼくを頼りいしてもらっても無理だよ。ナギサちゃん、会った時から忘れていたし」
「そうなのですか……わかりました。それなら仕方がありません。なんとかします」
 追加注文のプリンが来た。ユートは食べるのが夢中で周りが見えていない。
 ナギサも食べ始める。何度食べても飽きない強い魅力がある。
 機会があったらそのたびに食べよう。ナギサは強く思った。

 ユートの修行場はモトゥブにある山の中にある。険しい地形で船が着陸できる場所が無かったので、いったん麓に降りて、そこから登ることになった。
 ユートが言っていた変なバケモノというのはすぐに現れた。
「またでたな、バケモノめ!」
 ユートがスピアを振り回しながら突撃していく相手。それは紛れもなく欠片の影響を受けた変異生物だった。
 ナギサは鳩美やユートと協力して敵と戦う。前のパルムで遭遇した特大の大物は無く、油断さえしなければ何の問題はない相手だ。
「……この程度か」
 ナギサは巨大化して人を襲うようになった花を切り捨てる。ひとまず、周囲の敵を倒しきったので、ソードをナノトランサーに戻した。
「おねーさん、強いんだな」
 ユートが賞賛の声を上げる。嫌味のない素直な言葉だ。
「そうか? まあ、褒めてもらえるのは嬉しいな」
「……でも、なんかこわい強さだ」
 ナギサはユートと出会って、初めて彼の顔に影がさすのを見た。
「怖い強さ?」
 その言葉を聞いたとき、ナギサは一瞬だけ鳩美を連想した。彼女の実力を見たとき、何度か恐ろしさを感じたが、もしかしたらそれに近いのかもしれない。
 何度か言葉を交わしたことで、鳩美は恐ろしい人間ではないのがわかった。ナギサは自分が恐ろしい人間ではないと自覚しているが、ユートは怖いといった。もしかしたら、初めての人間がある程度の強さを見せると、人はまず恐怖の持つのかもしれない。
「安心してくれ、私は怖くないぞ」
 まだぎこちなかったが、ナギサはユートを安心させるよう微笑む。少し、鳩美を真似してみた。
「……それじゃあ、おねーさん。『死に触れることで強くなる』って言葉の意味、わかるか?」
 意味深な言葉だった。ナギサはしっかりと考えた上で答えなければならないと感じた。
「死に直面することで、生の大切さを知り、生きるという意思が強さになる、といったところか?」
 ナギサの言葉を聞いて、ユートはそうだと頷いた。
「そうか、合ってたか。私の理解力も捨てたものじゃないな」
「……なあ、おねーさん。もうひとつ聞いてもいいか?」
「ああ、何でも聞いてくれていいぞ。最近は話すのも楽になってきた」
 ずっとワイナールとしか話したことが無かったので、ナギサはまだ交流の浅い人間との会話を苦手としていた。しかし、鳩美と出会ってからは徐々にそれも改善してきている。
「……おねーさん、死ぬのって怖いか?」
「死んだことがないから分からないが……私にとっては怖かろうが怖くなかろうが、たいして違いはない」
「……そうか」
 ユートな何かを考えこむような顔をする。
「話はそれだけか。なら、先に進もう」
 それはユートの中の問題なのだからと思って、ナギサは気にしなかった。
 山の中腹に差し掛かった当たりで、ナギサ達は洞窟に入った。ユートの修行場はこの先にあるらしい。
 中は寒く、息が白くなる。洞窟に入ってから急激に温度が下がった。
「…………」
 先程からユートの視線を感じる。まるで見張っているかのようだ。ナギサは何か不手際をしたのかと思ったが、彼に疑われるような事は何もしていないはずだ。
「鳩美、どうも私はユートから何か誤解を受けているようだ。どうしれば良いのだろうか」
 ナギサは小声で鳩美に助言を求める。
「ユート君は初対面の人と接する経験が少ないですからね。ともかく、私やヒューガさんとの誤解を解くのに、ナギサさんがなにをしたのかを思い返せば、どうすれば良いかわかるはずですよ」
「そうだね。鳩美の言うとおりだよ。それを、あのユートくんにもやってあげればいい、ってだけの話じゃない?」
 鳩美とワイナールに言われ、ナギサは自分の経験を思い出そうとする。すると、適切な方法を理解できた。
「……そうか、なるほど」
 ナギサはその方法を早速実行に移す。
「ユート、ちょっといいだろうか。私から提案があるんだが……」
「……なんだ?」
 武器を構えるほどではないにしろ、ナギサに話しかけられたユートは警戒の姿勢を見せる。
「その……私と……戦ってもらえないだろうか!」
「ま、待って待ってちょーっと待ってー!」
 ユートと話している最中だというのに、ワイナールが割り込んできた。
「なに言ってんのナギサちゃん、気は確か!? なんでいきなりケンカ売ってるの!?」
「な、なぜだ!? 鳩美やヒューガは一度戦ってから話をして私を理解してもらえた! まずは手合わせして、互いの実力を見せ合ってから話し合うのが、自分を理解してもらえるための誠意なのだ」
「バーカ! ナギサちゃんのバーカ!!」
 ワイナールが罵倒する。自分は間違っていないはずなのにこの扱いだ。まったく腹立たしい。
「鳩美! ワイナールに言ってやってくれ。私は自分の経験を振り返り、それを実行しただけだ」
「ナギサさん」
「鳩……美?」
 鳩美はいつも微笑んでいる。それは今も同じだ。だが、何故か微笑んでいないような気配を感じる。
「その結果が、『戦ってもらえないだろうか』ですか? 確かに私は自分がしてきた事を振り返ってくださいと言いましたが、同じ事を繰り返すのではなく、ちゃんと考えて欲しかったですね。そうでなければ、誤解を解くどころか、さらに誤解されてしまいますよ」
 間違いない。鳩美は微笑みながら腹を立てている。そこでようやく、ナギサは自分は失敗したのだわかった。
「ゴカイ? なんのことだ?」
 しかし、当のユートは状況を十分に把握していないのか、きょとんとした顔をしえていた。
「いやー、きみがずーっとナギサちゃんを監視するように見ているから、何か誤解されてるんじゃないか、ってね」
「ぼくはべつになにも疑ってないぞ。ただ『あぶないな』と思ってみてただけだ」
「……危ない?」
 ナギサはユートの言葉に違和感を覚えた。これまでの戦闘で不利な状況にはなっていない。
「……おねーさん、自分の命をすごく軽く見ているだろ」
 ユートの言葉に、ナギサは息を飲む。完全な形で奇襲を受けたかのような驚きだ。
「そ、そんなことはない!」
 すぐに否定する。だがユートは言葉を続けた。
「死ぬってことを受け入れちゃだめだぞ。どんなことがあっても、行きようって思えば道はひらかれるし、幸せになれるんだぞ。だから、生きるのを諦めちゃったらだめだ」
「……心に、留めておく」
「おう、それじゃ進むぞ! ぼくの修行場はこの先だ!」
 洞窟の先を指差し、ユートは走りだす。
「あ、ユート君! 一人で走ってはだめですよ!」
 鳩美もユートを追いかけて先に進んだ。
「なんともはや。何も考えてなさそうで、その実、あの子は全てお見通しなのかもしれないね」
 ワイナールはナギサの考えを鋭く見抜いたユートに感心した。
「ああ。そうだな」
 諦めてなどいない。何をしてもどうせ無駄だからなどと、不抜けた考えなど持っていない。単にそれが使命だからに過ぎないのだ。ナギサは心の中でそう思っていた。
「ナギサちゃん、もう行こう。おいてかれちゃうよ」
「わかった」
 ナギサはユートと鳩美を追いかける。
 二人とは洞窟の出口で追いついた。
 入り口よりもさらに寒い。洞窟から出てみればあたり一面が銀世界だ。今は雪がふるような季節ではないが、頂上付近ではまだ残っていたのだ。
「さあ、着いたぞ! ここがぼくの修行場だ! ここには、ほとんどヒトがこないからな。ぼくひとりで使える、いい場所だ」
 洞窟を出てすぐの場所は広場になっており、確かに武芸の修行には丁度よさそうだった。
 周囲を見渡しても、特に異常は見当たらない。しかし、広場を抜けてさらに奥の方向から欠片の気配がうっすらと漂ってきていた。
「鳩美、欠片の気配がする」
「私達は運が良いようですね。では欠片を探しに行きましょう」
 気配のする方向へ進もうとした時だった。広場の向こう側から、一人のビーストの男が歩いて来る姿を見る。
「お前達、ここに何用だ?」
「だれだ!」
 突然現れた男に、ユートはスピアを向ける。
「それはこちらの台詞だな、少年。ここはローグスのナワバリ……誰であろうと無断で踏み入ることは許されない。迷いこんでしまったのなら、早々に立ち去れ」
 ローグスはモトゥブを中心に活動を行うアウトローの集団だ。この星の社会運営は表向きは、モトゥブ企業の共同体である通商連合がになっているが、実権はローグスが握っているのはほとんどの者が知っている。
 話しぶりから察するに、この男もローグスなのだろうが、荒くれ者にしては妙に知性を感じさせる目をしていた。
「私はこの奥にようがあるあんだ。立ちはだかるというのなら……力づくでも、押し通る」
 ソードは構えないが、いつ戦いになっても対応できるように注意する。
 ヒューガの時と違って、相手は裏社会の人間だ。誠意が通じるとは思えない。彼らにとって、妥協は敗北と同じ意味だからだ。
「やれやれ、血気盛んなお嬢さんだな。そちらの少年もやる気のようだが……さて、君はどうかな?」
 ローグスの男は鳩美を見る。
「……出来れば話し合いで解決したいところです。特に、貴方ほどの人物が相手となれば」
 鳩美はこの男を知っているようだが。だが、彼の方は鳩美を知らない様子だった。
「しかし、このまま帰ってくれるという雰囲気でもなさそうだな」
「ええ。私達にも事情というものがありますので」
「それでは提案だ。こちらの条件を一つのむのなら、この奥への侵入に目を瞑ろう」
「条件の内容は?」
「私はこの地域で起こっている突然変異現象の調査に来た。それを手伝うなら許可を出す、というのはどうだ?」
「分かりました」
「ちょっと待て。許可を出すのはいいが、貴方にそれほどの権限があるのか?」
 ナギサは交渉に口をだす。相手はローグスだ、油断はできない。口からでまかせを言って、こちらを都合よく利用するとも限らない。
「でなければ、このような交渉はしない」
 やはりこの男を倒してから欠片を探し始めたほうが良いのではないか。そんな考えがナギサの頭をよぎる。
「ナギサさん、駄目です。彼とは絶対に戦ってはなりません」
 気配から考えを察知したのか、鳩美はナギサを制止するよう言う。
「だが、鳩美」
 三人で戦えば確実に勝てる。そう言おうとしたナギサだが、それよりも前に鳩美が口を出す。
「勝てる勝てないの問題ではありません。彼を倒してしまったら、全てのローグスが敵に回ります」
 この男を倒した程度で、なぜ全てのローグスが敵に回るか、ナギサはわからなかった。だが、鳩美は根拠なしに断言するような人ではない。
「わかった」
 ナギサは鳩美に従う事にした。それはユートも同じだった。
「フ……交渉成立だな」
「待て、まだ話はおわっていない」
「何かな、お嬢さん?」
「私はお嬢さんという名前ではない、ナギサだ。貴方の名は、何という。鳩美は知っているようだが」
「彼は……」
「今はアルフォート・タイラーと名乗っておこうか」
 鳩美がなにか言おうとするのを遮るかのように、彼は名乗った。
「偽名か?」
 今は、という言葉から、ナギサは彼は今名乗ったのとは違う名前を持っているように感じた。
「懐かしい名前……と言ってほしい。一時的にでも、今の責務を忘れるための名だ」
 責務を忘れると言った時、タイラーは鳩美を見た。そこから何かを感じ取ったのか、彼女は言いかけた事を、改めて言おうとはしなかった。

 Act2へ続く

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by ginseiseki | 2011-03-24 21:29 | 二次創作小説
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