銀星石のブログ

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銀星石のエッセイブログ

異説・PSPo2インフィニティ 第1章

 ナギサ視点でPSPo2:EP2をノベライズしていると、この物語の本当の主人公はナギサであり、プレイヤーことAndYouはそれを観劇する立場なのだと感じます。







第1章 悪夢を狩る剣士

 あの女については、街の公共情報機器で調べたらすぐに分かった。
 名は赤木鳩美。フリーランスからリトルウィング所属になった傭兵だ。丁寧な物腰で護衛役としての評判が良かった。
 その情報を得て、ナギサは鳩美と戦った際に、彼女から感じた邪悪なものは単なる勘違いかもしれないと思った。少なくとも、得られる情報と自分の感覚は完全に正反対だ。
 ナギサはすぐにリトルウィングが居を構える、リゾートコロニークラッド6へと向かった。GRM社に潜入してからまた一日も立っていないが、行動は可能なかぎり早いほうがいい。

「なるほど、鳩美に護衛任務を頼みたいと」
 社長室兼事務所にて、ナギサは社長のクラウチ・ミュラーと護衛任務について打ち合わせをしていた。彼はだらしなく椅子に座りながらナギサの応対をした。
「そうだ」
 クラウチとは正反対で、ナギサは背筋を伸ばして椅子に座っている。意識しているのではなく、これが自然体なのだ。
「わかった。あんたが護衛はいらないと思うまで、鳩美を好きに使ってくれて構わない。もちろん、期間に応じてもらうものはもらうがな。これが料金の目安だ」
 クラウチが料金表をナギサに見せる。相場はさっぱり分からないが、内なる声の『彼』によれば少し高めだが法外ではないらしい。
「おっさん! ちょっと話があるんだけど……」
 ナギサが契約書にサインをしようとした時、後ろから覚えのある声が聞こえてきた。
「おう、帰ったか。ちょうどいいタイミングだ」
「クラウチ社長、ちょうど良いとは?」
 もう一つ、聞き覚えのある声。間違いない。彼女だ
「いつものアレだ。お前指名の護衛依頼が入った」
 ナギサは椅子から立ち上がり、振り向いて鳩美と向きあう。
 その時、隣にいた金髪の少女がナギサを指さして驚きの声を上げる。
 それもそのはずだ。取り逃がしたはずの謎の侵入者が、帰ってきたら居たのだから。
「なんだよエミリア、うるせぇなぁ。何度同じ注意させりゃ気が済むんだ? 客の前なんだから静かにしろっての」
「あんた……どうして……どうしてここにいるの」
 クラウチにエミリアと呼ばれた金髪の少女は、彼の忠告を無視して、なぜこの場にナギサがいるのかを詰問しようとする。鳩美も無言ではあるが厳しい視線を向けている。
「どうか落ち着いて欲しい。事を構える気はない」
 騒ぐエミリアをなだめようとするが、彼女はナギサの言葉に耳を貸そうとはしない。
(うーん、まいったねこりゃ。まあ、第一印象が最悪だから仕方ないか。ともかく、ぼく達の目的を説明するためにも、場所を変えたほうがいいね)
 内なる彼の助言に従い、ナギサは場所を変えるのを提案する。
「鳩美。具体的な依頼内容を話し合うためにも、どこか良い場所はないだろうか。出来れば人のいない場所がいい」
「……では私の部屋で話し合いましょう」
「鳩美!?」
「エミリアさん、この人があなたやシズルさんと同じならば、話を聞かなければなりません」
「それは、そうだけど」
 鳩美になだめられてエミリアは敵意を一時的に収める。
 その後、鳩美の部屋に移動した。
「ねえ、鳩美本当に良いの? なんかこいつ、すっごいヤバげな力も使っていたし、カムハーンの仲間だったりしたら……」
 エミリアの口からカムハーンの名前が出てきた。その人物を知っているとういことは、鳩美だけでなくエミリアも『彼』の声が聞こえるのだろう。
「そりゃ行き過ぎた冗談だね、お嬢ちゃん。間違ってもあんなのと一緒にしないでほしいな」
 それまで、『彼』は常にナギサに向けてしか言葉を話すことはなかったが、この時になって初めて外に向かって声を出した。
「いやしかし、なるほど納得だよ。やっぱり半年前にカムハーンは出てきてたんだ」
「ワイナール……余計な詮索はいいから、早く出てこい」
「へーいへい」
 彼がナギサの体から出てきて姿を現す。
「よっと、これでいいかな。はじめまして、ぼくの名はワイナール、よろしくね。まあ、見ての通り、きみ達のいうところの旧文明人さ」
 ワイナールは肘をナギサの頭にのせた姿勢で自己紹介した。彼は実体がないので重さ
を感じ無いが、それでも少し邪魔に感じた。
「そういやナギサちゃん。きみ、ちゃんと自己紹介してたっけ?」
「いいや、してないな」
 ナギサは胸を張って答える。
「念のために言っとくと、いばれることじゃないからね?」
 なぜだろうか。ナギサは変な事を言ったつもりはないのだが、ワイナールは少し呆れていた。
「ダメだよー、きちんと自己紹介しておかないと。他人ってのは警戒を解いてくれないんだよ?」
 警戒されているならば、先制攻撃をされる前に無力化すれば良いではないか。ナギサはそう思ったが、ここは素直に従う。ワイナールの助言や忠告は、極めて高い確率で正解だからだ。
「……そうなのか。ならば改めて自己紹介させてほしい。私の名はナギサという。よろしく頼む」
 これで鳩美とエミリアはこちらに対して友好的になってくれるはずだ。そう思ったのだが、二人の表情は石のように固まっている。
「おい、ワイナール。二人とも絶句しているぞ。何か悪いことを言ってしまったのか、私は? それともお前、また私に嘘をついたのか?」
 ワイナールのアドバイスは十分に信用できるが、間違っている場合もある。それは彼がイタズラ心で嘘をついている時だ。
「さあ? ぼくは嘘なんてついていないし、聞いた感じ、問題はなかったと思うけど」
 ならば何か別の要因があるのか。しかし、ワイナールにもわからないことはナギサにもわからなかった。
「へ……」
 その時、エミリアが何かを口にしようとした。
「ヘンタイがいるーーーッ!」
 エミリアはワイナールを指さして叫んだ。
「ぶっ! ちょっ、ちょっとお嬢ちゃん! 開口一番変態扱いってどういうこと!?」
「な、ななっ、なんでそんな露出の多いカッコしてるのよ!」
「いやいやいやいや、これ旧文明のフォーマルな格好だって! 正装なんだよ、正装!」
 正装。つまりは正式装備が旧文明人にとってこれだというのはナギサも初めて聞いた。あんな防御効果の薄そうな衣服をわざわざ着用する感覚は理解出来ない。
「それに、きみたちと共生していた旧文明人だって、こんな感じの格好をしていたでしょ!?」
「そうでしたね。ミカさんもそんなハレンチな格好をしていました。あんなに真面目そうな方がとは思っていましたが、なるほど、そのような理由があったのですね」
「いやー、きみは理解が早くて助かるよ」
 ワイナールが鳩美に近づこうとするが、彼女は微笑みの表情を固定したまま、無言で彼から離れた。
「うわー、めっちゃくちゃ嫌われた……会話ほとんどしていない段階で、こんなに嫌われたの初めてだよ……」
「自業自得だな」
 がっくりと肩を落とすワイナールだが、ナギサは同情してやるつもりはなかった。上半身がほとんど裸という格好はもとより、長い金髪を煙突のような形にした奇抜すぎる髪型も致命的だ。
「所構わずに武器を振り回すきみにだけは言われたくないね、その台詞。まあいいや、面白い名前が聞けたし」
「ワイナールさんはミカさんとお知り合いなのですか?」
 だいぶ友好的な感じにはなったが、それでも鳩美は一歩分離れてワイナールと会話をし、エミリアは彼女の後ろに隠れていた。
「ミカのことはよく知っているよ。多分きみたちより知っているはずだ。なにせ、ずっと一緒に研究していたからね。だから、聞かせてくれないかな。半年前に何があったのか。どうして今ここに、ミカがいないのか……」
 それから鳩美の口から、旧文明の王であるカムハーンが、ヒューマンの肉体を奪って、旧文明人を復活させようとしていたことが語られる。
 しかし、エミリアに宿っていたもう一人の旧文明人、ミカが鳩美達にその事を教えたのだ。
 戦いの末カムハーンは倒された。しかし、その代償としてミカの精神はエミリアの肉体から消滅してしまった。
「なるほどねぇ、旧文明人の復活計画か。相変わらず馬鹿なことを考えてるな、あいつ」
「私の知らない間に、そんなことが起こっていたのだな」
「カムハーンの件は世界規模の事件でしたのに、気づかなかったのですか?」
 鳩美が不思議そうな顔で尋ねる。
「私たちは私たちで別の目的があったからな」
「目的ですか?」
「ワイナール、説明を頼む」
 長時間の会話が苦手だったので、ナギサはワイナールに説明役を頼んだ。
「単刀直入に言ってしまえば、デューマン発生の元を立つために動いているんだよ、ぼくたち」
「あんた達、デューマン発生の原因を知っているの!?」
 それまで鳩美の後ろに隠れていたエミリアが、前に出てきた。
「原因自体はすぐにわかるものだよ。きみたちの場合は、難しく考えすぎて、調査の仕方が間違ってるみたいだね」
「調査の仕方? アプローチの方法が違うってこと?」
「そうさ。原因はSEEDにあるんだよ、お嬢ちゃん。ちょっとその方向から調べてみるといい。ぼくの言っていることが嘘じゃないってわかるし、ぼくたちのことも信用してもらえるはずだ」
 SEED。それは三年前に外宇宙から飛来した未知の生命体だった。それは他の生物を浸食するという性質を持ち、あわやグラール滅亡の危機に瀕していたが、イーサン・ウェーバーという若者と、いくつもの功績を上げておきながら決して表舞台へ姿を見せなかった、通称『影の英雄』の二人によって世界は救われた。
「実はお二人が首謀者であるという可能性は?」
 鳩美の顔から微笑みが消える。
 その時、またしてもナギサは彼女から恐ろしさを感じた。
 いや、違う。そうナギサは自分の感覚を否定する。見たところエミリアは鳩美になついているようだし、誰かに好かれるような人物に恐ろしさなどあるわけがない。単に、信用されるかどうかの瀬戸際に立たされた緊張感を勘違いしただけだ。
「私もワイナールも、そしてこのグラールの誰もが、この件に関しては、被害者といえる。いささか軽いものだが、私の命に掛けて誓おう」
 鳩美が真偽を確かめようと、こちらを見つめてきた。ナギサは心臓の鼓動が早くなるのを自覚した。
「分かりました。お二人を信用しましょう。エミリアさん、申し訳ありませんがシズルさんの所にいって、裏付けをとってきていただけませんか?」
「鳩美、いいの?」
「ええ。大丈夫です。この人達は私……私達が倒すべき相手ではありません」
「わかった。鳩美がそう言うなら私も信用する。それじゃあ早速いってくるね」
「お願いします」
 エミリアは飛び出すように鳩美の部屋から出て行った。
「さて、だいぶ回り道をしましたが、本題に入りましょう。護衛依頼ですが、つまりはお二人が目的を果たすために協力すればよろしいのですね?」
「あ、ああ。そうだ」
「信用してもらう側のぼく達が言うのもなんだけど、ずいぶん簡単に信用するんだね」
「もちろん、一から十までの全てというわけではありません。ひとまずはこの場に限ってというだけです。ここから先、私が信用するかどうかは、お二人の言動、行動にかかっています」
「わかった。私が不審な行動や貴女たちを害する行動を取った時。その時は、容赦なく私を殺してくれ。その覚悟をもって、私はここに来た」
「そうならない事を切に願っていますよ」
 その言葉を聞いたとき、やはりまだ信用されていないのだなとナギサは思った。鳩美の言葉は少し嘘っぽく、言葉とは逆で、まるで邪悪な本性を早く見せて欲しいと願っているように思えた。
「よし、話が決まったのならば、すぐに行動しよう。これから私たちはニューデイズへ行く」
「分かりました。では、船の使用許可を取ってきますね」
 それから数時間後、ナギサたちはグラール太陽系の第二惑星ニューデイズの地に降り立った。
 と言っても、正確な意味で大地に立っているわけではない。ニューデイズは他の惑星と比べて異様なほどに巨大な植物が生えており、そのせいで人間が生活できる場所は限られていた。首都のオウトクシティを始め、多くは水上都市だ。
 ナギサ達がいる場所も、山一つを包み込むように生えている樹木の枝の上だ。
「やれやれ、自分達の失敗が一万年もたってもずっと続いていると思うと、なんだか申し訳ない気分になるねえ」
「ワイナールさん、ニューデイズにおける植物の異常繁殖は旧文明が関係しているのですか?」
「そうなんだ。ぼくは直接関わっていないから詳しくは知らないけれね。植物に関する研究をしていた所があったのだけど、実験事故でバイオハザードが発生してこうなってしまったのさ」
 ナギサは鳩美とワイナールの会話にはあまり興味を持たなかった。たった一つの目的が全てなのだ。
「気配が近い。鳩美、こっちだ」
「ちょ、ナギサちゃん、一応護衛してもらう側なんだから、そんなにドンドン先に進んじゃ駄目だって」
 ワイナールの言葉を無視してナギサは進む。これまでずっとこうしてきたのだ。味方が一人増えたとしても、いつもどおりで十分だ。
 その時、ナギサの前に渦巻き模様のある四足獣が現れた。
「ゴナン? 人前に姿を表す事はめったにないはずですが……」
 この原生生物の名前はナギサに取ってはさほど気にするようなものではない。
 ゴナンは明らかに敵意とわかるものをナギサに向け、犬歯をむき出しにして唸っている。獲物を狩る時や縄張りを荒らされた時のようなものではない。はっきりと狂気を感じる。
「また凶暴化現象ですか。SEEDも亜空間もないのになぜ……」
 グラールでは原生生物が異様な攻撃性を示す現象があった。それは外宇宙からやって来た未知の生命体SEEDに侵食されたり、亜空間が発生した影響でもあった。
 だが、これはそのいずれかでもない。全く新しい三番目の要因によってゴナンは凶暴化しているのだ。
「やっぱりね。凶暴化した原生生物がでたってことは、ここは当たりだね」
「ああ」
「この凶暴化現象はお二人の目的となにか関係が?」
「そうだ。だが説明は凶暴化の原因を見つけてから説明する。その方が理解してもらいやすい」
「分かりました。では、敵を倒して先に進みましょう」
 ナギサは鳩美と協力して現れてくる敵を倒し、先へと進む。
 しかし、戦っているうちに、ナギサは鳩美の存在を徐々に忘れていってしまった。これまでたった一人で戦って来たので、味方がいるという状態に慣れていないためだった。
 一人で黙々と敵を倒しているつもりになる。スタンドプレーに鳩美が合わせてくれるおかげで、かなり戦いが安全で楽になっているが、ナギサはソードを振るうのに夢中でそれに気づかない。
 目的の物の気配がかなり強くなった。もう直前まで来ている。
 その瞬間、ナギサは心臓を冷たい手で握られたような恐怖心を感じた。これまで背後から攻撃されたのはなんども経験している。だが今回は違った。
 熱い物を触ったら思わず手を引っ込めるのと似たような理屈で、ナギサは本能的に背後にいる人物を斬りつけようとした。後ろに敵がいるから攻撃したのではない。背後にいる何者かがとても恐ろしいから攻撃したのだ。
 刃と刃がぶつかり合う音が響く。
「……危ないじゃないですか」
 後ろに居たのは鳩美だった。彼女はセイバーでナギサの攻撃を受け止めていた。
「なんだ、鳩美か。私の背後に立たないほうがいい。間違えて斬ってしまうところだったぞ」
「以後注意します。ですが、ナギサさんも私がいるのをちゃんと覚えていてくださいね」
 鳩美の表情は変わらないが、言葉には僅かながら怒りがこもっていた。
「目的の物は近い。行こう」
 そう言ってナギサは先頭を行く。
「ははは、どうだい、びっくりしたかい?」
「ワイナールさん、笑い事ではありませんよ」
「きみを護衛に頼んだ理由の一つさ。強くないとやられちゃんだよ。他ならない、ナギサちゃんにさ。あの子はずっと一人で戦ってきたから、背後に立つ人を攻撃する癖があるんだ」
 後ろでワイナールがナギサの代わりに弁護をする。
 ナギサは恐怖心に振り回されて必要のない攻撃を行ってしまったことを恥じていた。もっと気をしっかり持たなければ。でなければ使命を果たせない。
「見つけた……一〇五個目の欠片」
 GRM社の研究所にあったのと同じ黒い石が、直径五メートル以上はある極太の枝の先に浮かんでいるのを見つけた。
「GRM社のと同じ石ですね。あれが目的の物ですか?」
「そうさ、あれがナギサちゃんの捜しもの。デューマンを生み出す原因で、グラールが滅ぶ理由となりなりものさ」
「そう言われると、黒い色になにやら禍々しいものを感じてしまいますね」
「ワイナール、詳しい話は後にしよう。鳩美、少し離れていてくれ」
「分かりました」
 鳩美が下がる。ナギサは彼女が十分に離れたのを確認し、作業を開始する。
 いつもどおり、手のひらをかざして欠片を粒子化し、自分の体内に吸収する。
「終わりましたか?」
「ああ」
 ナギサは鳩美に答える。
「じゃあ、話の続きをしよう。すこし、概念的な話になっちゃうけど、聞いてもらえるかな」
「はい。それは必要な事でしょう」
「闇っていうものは、消えないものなんだ。潰しても、刻んでも、焼いても砕いても……けっして、消えることはない。光を潰せないのと同じだよ。だから、闇の化身たるSEED、その大元のダーク・ファルスも、消えることはないんだ」
「もしかして、あの黒い石はダーク・ファルスが復活するための?」
「鋭いね。そのとおりさ。ダーク・ファルスの肉体そのものはイーサン・ウェーバーと『影の英雄』が歪曲空間内に封印したけれど、奴は僅かな隙間から、こっちの世界に干渉しているんだ。最近、原生生物が凶暴化したり、突然変異したりしているだろう」
「ええ。原因は全く不明だそうです」
「あの石こそが原因さ。あれは原生生物をSEED化させるほどの力はないけれど、凶暴化と突然変異を促す力がある。だからヒューマンがデューマンに変異したのさ」
 ナギサにはダーク・ファルスが復活に利用する黒い石を吸収し、なおかつ精神を侵食されない力があった。どうして自分なのかは分からない。しかし、これは使命であると考えた。
 突然、胸が苦しくなった。欠片を吸収した直後に現れる例の症状だ。もはや耐えられない。ナギサの意識は途切れてしまった。

 ナギサが目覚めたのは鳩美の部屋だった。ただし、完全には目覚めてはおらず、意識はまどろんでいた。
「護衛とは別にお願いがあるんだ。簡単だけどナギサちゃんに取って無二のお願いだよ。鳩美には、この子と仲良くしてあげてほしんだ」
 ワイナールが鳩美と何かを話している。ナギサは徐々に意識がはっきりとしてきた。
「や、ナギサちゃんおはよう。いいお目覚めだね。ゆっくり眠れた? 見たり触ったりできなかったのは、残念無念」
「ここは、どこだ? 私の記憶によると、さっきまでニューデイズにいたと思うんだが」
「ナギサちゃん、倒れちゃったんだよ。んで、ここまで鳩美に運んできてもらって、ただいまお目覚めという流れさ」
 ワイナールから礼を言うよう促されたので、ナギサは素直に感謝の言葉を述べようとした。
「そうだったのか。ありがとう鳩美。助かった」
「いえ、礼には及びません」
 その時、鳩美の携帯通信機器から着信音がなる。
「私です。……ええ、はい……はい。分かりました。ではワイナールさんに変わります」
 鳩美は機器を操作して、他の人にも通信相手と会話できるようにした。
「ヘンタイさん、聞こえる?」
 通信してきたのはエミリアだった。
「聞こえるよ~。でも、出来ればちゃんと名前で読んでほしいな」
 だが、エミリアはワイナールの願いを無視して話を進めた。
「それでね、改めて調べてわかったんだけど、デューマン化の原因は、三年前に散布されたSEEDウィルスとそのワクチン、そして元々のヒューマンの肉体が相互に作用しあっているためみたい。あんた達が行っていた事が本当だって科学的に証明されわ」
 三年前、あろうことかグラールを支配するために、人をSEEDに変えるウィルスを創りだした組織があったのだ。それで社会は大混乱に陥ったが、なんとかワクチンが完成したのだ。
「よかったよかった。これで少しは信用してもらえる」
「ただ、なんでヒューマンだけがデューマンになるのかまではわからないけれどね」
「お嬢ちゃん、それについては、一つ仮説がある」
「どんなの?」
「ヒューマンは元々旧文明人が産み出した人工人類だというのは、ミカと共生したきみなら知っているよね?」
「ええ」
「ヒューマンを生み出すとき、旧文明人はまたSEEDが現れた時に備えて対策を施していたんだ」
「あ! もしかしてSEED侵食に対する耐性!?」
「そのとおり。現代の人類はSEEDに汚染された環境でも生存できる性質を持っている。だからウィルスでも使わなければ侵食されないんだ。SEED耐性、ウィルス、ワクチンがそれぞれ絶妙なバランスで拮抗し、そこに黒い石が刺激を与えた事で、デューマンが発生しているんだと思う」
「そもそもあの黒い石ってなんなの?」
「鳩美にも説明したけど、あれには生物の突然変異を促す力があるんだ」
「ふむふむ。あれ? でも、同じくSEEDに耐性のあるニューマンやビーストはデューマンにならないんだろう?」
「ヒューマンとは遺伝子が異なる人類だから、その違う部分のおかげで、突然変異の力を受けても影響が無いんじゃないかな? 専門じゃないから、ぼくにもはっきりとは分からない」
「なるほどね。新しい情報をありがとね、ヘンタイさん。早速、それを踏まえてまた調べてみる。じゃあね!」
 エミリアは慌ただしく通信を切った。
「それでは、私は少々雑務がありますので、失礼します。体力がもどるまではここでゆっくりしていてください」
「ああ。恩に着る」
 鳩美が出ていき、部屋の中が静まり返った時、ナギサは小さくため息を吐いた。
「ナギサちゃん、本当は相当辛いんだろ?」
「……辛くなんか無いぞ。私は元気だ」
「あのね、ぼくときみは一心同体みたいなものなんだよ?」
「筒抜けというわけか……」
 虚勢はあっさりと見破られてしまった。実際は、意識していなければ苦痛が顔に出てしまうほどだ。
「いや、実はなにもわからなかったりするんだけど」
 ナギサはしてやられたと思った。
「……呼吸をするように嘘をつくな」
「その言葉から察するに、やっぱり辛いんだね」
「言ったところで、誰かが代われるようなものでもないだろう」
 ナギサは泣き言を言うつもりはない。なぜなら、黒い石……欠片を吸収できるのは自分だけなのだ。もしかしたら、自分しかできないからこそ、泣き言を言うのは始めから諦めてしまっているのかもしれないが。
「それより、鳩美の力は……」
「……ああ、うん。ずっと見ていたよ。大丈夫、きっとやってくれるよ。彼女なら、きっとね」
「そうか、よかった」
 本当によかったのか? ナギサは心の奥底ではそう考えていた。鳩美は良い人だ。味方であることには違いない。違いないはずなのに、なぜだか最後の一線で、どうしても恐怖と不安が残っていた。

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by ginseiseki | 2011-03-09 18:20 | 二次創作小説
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