「ほっ」と。キャンペーン

銀星石のブログ

ginseiseki.exblog.jp

銀星石のエッセイブログ

異説・PSPo2インフィニティ プロローグ

 PSPo2インフィニティに収録されているストーリーモード・エピソード2をナギサの視点でノベライズ化した二次創作です。ゲームの世界観やストーリーに対する私の個人的な解釈を元にしたアレンジを加えておりますので、そういったのが不愉快な方はご注意ください。

 また、PSPo2のエピソード1にいてはこちらを参照してください。

http://ginseiseki.exblog.jp/i19/

 ただし、私が未熟で(現在でもそうですが)二次創作にありがちな悪癖であるメアリー・スーの要素が強めです。






 あるところに一人の邪悪な人間がいた。
 邪悪もその種類はさまざまであるが、彼女は人殺しに分類される。
 彼女は数えきれないほどの人間を殺してきた。あらゆる人間を手当たりしだいという訳ではないが、少なくとも自分の敵となる人物については一切妥協せず殺してきた。
 何故彼女は人を殺すのか。人が人を殺す理由は様々だ。金を手にするためであったり、人間関係の不和であったり、大義を守るための戦争であったり。
 彼女の理由は快楽だ。人を殺した時、彼女は上質で高級な嗜好品を味わっているかのように、その心が満たされる。
 彼女のような快楽殺人者が何故そのような狂気を持ってしまったのか。多くの場合は幼少期に親から虐待されていたり、倫理や道徳が成り立たない環境で生活していたりしたのだろうと考えられる。
 人の精神は、それを狂わすに値する出来事無しには狂わない。その見解は正しい。正しいが、何事にも例外はある。
 彼女が過去にどのような体験をしてきたのかは全くの不明だが、例えそれが明らかになったとしても、彼女の狂気の証明にはならないだろう。
 彼女という個人が持っている本能として、彼女は殺人に快楽を感じていた。屍の山を築き、血の河を流す為に生まれてきたように人を殺す。それが彼女という人間であった。
 さらに恐ろしい事だが、彼女は自分の邪悪さを、誰かを殺す瞬間以外には完全に隠しきっていることだ。
 普段の彼女は品の良い物腰と丁寧な言葉遣いで日々を過している。
 初めて彼女を目にすれば、おそらくはどこかの名家のお嬢様であると誤解してしまうだろう。殺人とは無縁で、教養として楽器の演奏でもしていると思ってしまうだろう。
 だが実際の彼女は違う。彼女が手にするのは武器や兵器であり、鳴らす音は美しいメロディではなく、断末魔の悲鳴だ。
 常にその邪悪を発露しているよりも、善良の仮面をかぶっているほうが恐ろしい。なぜならば、致命的な事態に陥るその直前まで、すぐそばに邪悪がいると分からないからだ。
 純粋に善良な人間(それが実在すると仮定してだが)にとって幸いだったのは、彼女の殺意は自身と同じ邪悪にしか向けられない事であった。幸いと言っても微粒子のごとく小さな幸運だが。
 欲望のままに弱者を虐げる略奪者。
 自分達以外は全て家畜であると侮辱する差別主義者のテロリスト。
 他人の不幸を利益に両替する企業。
 彼らは例外無く自分の幸福、あるいは正義は磐石であり、寿命が尽きる瞬間までそれが保証されていると考えていた。
 だがしかし。彼女が現れると彼らは自分達が妄想に浸っていたことを思い知らされる。
 結果的に悪党が滅ぼされてはいるが、それだけでは正義は成り立たない。正義とは、悪が倒されるという結果に加えて、一つの正義が悪に立ち向かうという過程があって初めて成立するのだ。
 だから、邪悪のみを殺していたとしても、快楽を理由に戦う彼女は正義ではない。
 邪悪が正解になる事があったとしても、邪悪が正義になることは決して無い。あってはならない。
 これから彼女は一人の少女を救う。しかし、それは正義のためではない。あくまで善良を演じるために行っただけに過ぎない。
 少女は彼女に救われたと思うが、彼女が少女に語りかけた言葉の全ては、こう言えば善良に見えるだろうと考えたに過ぎない、上っ面だけの言葉なのだ。
 繰り返す。彼女は正義ではない。彼女は邪悪である。


プロローグ

 GRM社といえば、グラール太陽系の第一惑星パルムに本社を構える大企業だ。なのでそこが所有している研究所ともなれば、潤沢な資金力を活用して、高い水準のセキュリティを維持している。
 その施設内の通路を一人の少女が歩いていた。長い黒髪は多くの男を振り向かせる魅力を持っていたが、病的に白い肌と右目を覆う眼帯のせいで、彼女に近寄り難い雰囲気を与えてしまっていた。
 施設に勤務する職員は、電子キーを兼ね備えた身分証明証を、見える形で衣服に付ける義務があったが、少女はそれらしき物を一切持っていなかった。
 それもそのはず。なぜならば少女はこの施設に不法侵入したからだ。
(いやはや、さすがは天下のGRM社だ。こんな堅牢なセキュリティはなかなかないね。破るのに随分骨が折れたよ)
 少女の頭の中で、男の声が響いた。しかし、彼女はその事に驚きを見せず、それに対して日常的に振舞う。
「少し黙っていてくれないか。気配を察知しにくい」
(へいへい。分かりましたよっと。じゃあナギサちゃんの邪魔にならないよう、僕はしばらく黙っているよ)
 男の声にナギサと呼ばれた少女は、目的の物が発している気配を感じ取るため、これまで何度もそうしてきたように、瞳を閉じて意識を集中する。
「見つけた」
(本当かい?!)
「ああ、間違いない。こっちだ」
 ナギサは確信を持って言った。
 感じ取った気配のする方向へと走りだす。侵入者としては堂々としすぎているが、セキュリティには『彼』が欺瞞情報を流している。ここを管理する機械達にとって、ナギサは透明人間となっていた。
 何度か扉を通過し、最後の扉をあけたとき、目的の物がある場所へ到達した。
 そこは、大型マシナリー(注:グラール太陽系における作業機械の総称)の動作実験でもするのか、非常に広い部屋だった。一辺は目測でも五〇メートル以上はあるし、天井の高さも、人間が飛んだり跳ねたりした程度では絶対に届かない。
 部屋の中央に、ナギサが求めている物体があった。
 それを一言で言うならば『真っ黒い石』だ。黒色の濃度があまりに濃すぎるので、自然界に存在する鉱石とは思えない。
 実際、ナギサはその石が天然自然のものではないことを知っていた。
「……あれ? 誰かいる……?」
「……貴女、その石に何をしているのですか?」」
 ナギサが石に手をかざそうとしたその時、背後から少女と若い男の声が聞こえてきた。
 振り向くと、金髪の少女と、ナギサと同じように病的に肌が白い男、そして二人の後ろには女性にしては背が高い黒髪の女がいた。少女と女はヒューマンだ。
(あちゃー。まいったね。あの男、GRM社長のヒューガ・ライトじゃないか。ナギサちゃん、さっさと済ませちゃおう)
「言われなくとも分かっている」
 ナギサが念じると、黒い石が光の粒子となって、かざしていた手のひらに吸収された。
「石が消えた!?」
 金髪の少女が驚きの声を上げる。
「……これで一〇四個目」
 ナギサはこれまで吸収していた石の数を数える。残りはもう数えるしか無い。長い旅だったが、それも終わりが見えてきた。
 だが、感慨にふけっている暇はない。
「待ちなさい! ここはGRM社の研究施設です。美しいお嬢さんでも、不法な侵入は許されません。理由を聞かせてもらえますか。そして、今、何をしたのかも」
「断る」
 ナギサはきっぱりと言った。ヒューガの指示に従っている時間はない。アレはまだ残っているのだ。速やかに次のを目指して動かなければならなかった。
「フ……意思の強い女性は好きですよ。ですが、状況が状況です。不本意ながら、力づくでも聞かせてもらいます」
 ヒューガはナノトランサー(注:歪曲空間を生成し、そこに物品を収納する道具)から片手用剣セイバーを取り出す。ナギサにとっては初めて見るタイプだ。おそらく、まだ発売されていないGRM社の新モデルだろう。
「下がっていてください、お二人とも。こう見えても、剣技には自信があるのですよ!」
 言葉通り、自身に満ちた表情で、男は金髪の少女と背の高い女に言った。
(嫌味な奴だ。でも腕に自信があるのは確かだし、アイツはナギサちゃんと同じデューマンだ。油断しないでいこう)
 デューマン。ここ最近、グラール太陽系の四大種族の内、ヒューマンの遺伝子が変質して誕生した五番目の人種だ。
「私は一度だって油断した事など無い」
 内なる声に答えながら、ナギサもナノトランサーから自分の武器を取り出す。
 それは両手用の剣であるソードに、回転式弾倉を合体させたものだ。ナギサのような少女には持つことが出来ない大きさではあるが、元々軽い素材で作られているし、デューマンであるナギサは見た目以上の腕力を持っているので、重量の問題は無い。
 先手はヒューガだ。彼は素早く懐に入り込んで、セイバーを振り下ろしてきた。
 ナギサはソードで受け止める。相手の動きは軽快だが、いざ攻撃を受けてみると、予想していたよりも重い。
 ナギサも応戦する。しかし、相手は振りの速いセイバーで、こちらはどうしても動きが大雑把になってしまうソード。一対一の対決では向こうの方に分がある。
 もちろん、それは十分理解していた。だが、このソードならば不利を覆せるのだ。
 柄にある引き金を引く。すると、回転式弾倉に装填されていたカートリッジのフォトンエネルギーが、ソードの背から噴き出される。
 推力を得た刃は凄まじいスピードで相手を切り裂こうとするが、ヒューガはその攻撃を難なく回避した。
(デューマンと戦うのは初めてとはいえ、これは少しピンチかな? ナギサちゃん、僕の力を使うんだ)
「しかし」
(自分の力だけで戦おうとするのは立派だ。でも、僕達の目的を思い出して。今は決闘をしている場合じゃない)
「……わかった」
 ナギサは内なる声の指示に従う事にした。
 右目を覆う眼帯を外す。別に怪我で眼球を失っていたわけでは無い。理屈は分からないが、これから使おうとする力は右目を隠していると、ナギサの意思とは無関係に使えなくなる。だから、乱用しないという戒めのために眼帯を付けていたのだ。
 意識すると、自分以外の力がナギサの全身に浸透する。
 今度はナギサが攻勢に回る番だ。
 上段からの振り下ろし。大振りな攻撃だが、閃光のような素早さを得たナギサに取っては、相手に付け入られるような隙ではなかった。
 事実、ヒューガは防御するだけで精一杯だった。つばぜり合いの最中に見る彼の表情は、ナギサの突然の変化に戸惑いを隠せないのがよくわかる。
 一気に決着をつける。ナギサはソードの引き金を引き、もう一度刃の背からフォトンエネルギーを噴出させる。そして、そのままヒューガを押し出して壁に叩きつけた。
 必要な分の痛手は与えた。ヒューガはその場に崩れ落ちて気を失う。
「ヒューガさん!」
「っていうか何、今の? 急に動きが……あれがデューマンの力なの?」
 これはデューマンの力とは違う。違うが、ナギサは金髪の少女に対して、律儀に説明するつもりはなかった。
「エミリアさん、ヒューガさんを頼みます」
「わ、わかった」
 背の高い女はナノトランサーから片手用の杖であるウォンドを取り出すと、自身に身体能力を強化するテクニック(注:魔法を科学的に解明した技術)をかける。
 女はウォンドからセイバーに交換して、戦う姿勢を見せる。
(次はあいつが相手か。このまま粘られても面倒だから、もうテキトーに蹴散らして逃げようよ)
「ああ、そうだな」
 おそらくはヒューガほどではないだろう。ナギサは背の高い女を見てそのように評価した。これまで戦ってきた強い者達は、例外なくそうと分かる雰囲気をにまとっていた。だが、彼女はそういったのが全くなかった。
 引き金を引きソードの推力を上乗せした、なぎ払い攻撃を女に与えようとする。だが、彼女は一歩後ろに下がっただけで、ナギサの攻撃を回避した。
 強い自信のある攻撃だったので、ナギサは避けられたのを少し驚いた。だが、ソードの推力はまだ残っている。くるりと回って遠心力を使った二撃目を繰り出す。
 だが、それよりも早く女が反撃してきた。大胆にも懐に深く入り込んで、突きを繰り出してきた。
 攻撃を中断し、ナギサは無理やり体をひねってその攻撃を避けるが、バランスを崩して倒れてしまう。
 背の高い女はそれを見逃さなかった。動きを止めてしまったナギサに、セイバーを振り下ろそうとする。
 その瞬間、ナギサは女と目があった。同時に、体を悪寒が襲う。まるで内蔵全てが冷えたような感覚だった。
 恐ろしい。ナギサは自分が戦っている相手の目を見てそう思った。彼女の黒い瞳がまるで、底のない暗闇のように見えたからだ。
 ナギサは相手の攻撃をソードで受け止める。防御に成功したのを安堵するのは初めての経験だった。
「あなた、何者ですか?」
 女がナギサの正体を尋ねる。
「お前こそ、誰だ」
 刃を押し出して女を振り払う。彼女は後ろに跳んで距離をとったが、その一瞬の時、女が笑ったような気がした。まるで、悪魔が人に化けているかのような笑みだった。
 速やかに立ち上がり、ナギサはソードを構え直す。
 女の顔を見る。先ほどのそのような悪魔的なものはなかった。最初と同じ、善良で真面目そうな雰囲気しかなかった。戦いで余計な事を考える余裕はないので、ナギサは彼女から感じた恐ろしさのようなものは単なる気のせいだろうと片付ける。
 やりにくい相手だ。実力をなかなか把握できない。もっと慎重に戦うべきかもしれない。
「その力、まるでカムハーンのようですね」
(今、あの人、カムハーンって言った? なんでその名前を知っているの?)
「男の声? あなた、まさか体に旧文明人を?」
 不思議な事に、ナギサしか聞き取ることが出来ない『彼』の声が、あの女にも聞き取る事が出来ていた。
「おい、あの女、お前の声が聞こえているみたいだぞ」
(おっとナギサちゃん、そこまでだ。僕の力もそろそろ時間切れだ。ここは退くよ)
「……わかった」
 脱出ルートはすでに想定済みだ。ナギサは踵を返して撤退する。
 『彼』が施設のセキュリティを操作して追ってが来るのを防ぐ。彼女たちはロックされた扉に阻まれてナギサを追うことができないだろう。
 施設を難なく脱出したナギサは近くにあった森に姿を隠す。
 追っ手が来る気配な全くない。ナギサは深呼吸をして緊張感を解く。
 だが、その時、見えない手が心臓を握り締めているかのような苦しみが沸き上がってきた。
 思わず、その場にうずくまってしまう。あの黒い石を吸収するようになった最初の頃はこんな事はなかった。しかし、数が多くなるに連れ、吸収するたびに体が異物に対する拒絶反応を示すようになった。
(ナギサちゃん、一人でやるにはもう限界だ。これから先、君には味方が必要だ)
 私は一人で十分だ。そう反論しようとしたが、苦しくて声もあげられなかった。
(あの女、僕の力を使ったナギサちゃんとほぼ互角だった。服に傭兵派遣で有名なリトルウィングのマークがあったから、あの人に護衛を頼んだほうがいいんじゃないかな)
「そうだな……こんな体たらくでは、素直にお前の助言に従ったほうが良いだろう。だが……」
(だが?)
 正直な感想として、ナギサはもう二度とあの女と関わりたくない気持ちだった。まる出会ってはならない者と出会ったような感覚だ。
「……いや、なんでもない。忘れてくれ」
 体が弱っているせいで気持ちまで弱っているんだ。世界を守ろうとしているのにこんなの駄目だ。ナギサは意識して自分を鼓舞し、あの恐怖を忘れるよう務めた。

[PR]
by ginseiseki | 2011-03-09 00:35 | 二次創作小説
ブログトップ