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銀星石のブログ

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銀星石のエッセイブログ

PSU&東方クロスオーバー小説 第3話

 今回は約8千字程度に収まったので、前編後編に分かれていません。





出典元
SEGA『ファンタシースターユニバース』
上海アリス幻樂団『東方Project』

東方幻想惑星~キャストが幻想入り~
第3話 白い狼は雷竜に挑む



 実世界から隔離された箱庭世界である幻想郷には、山が一つしかない。
 その山には天狗や河童を中心とした妖怪たちが住んでいるため、『妖怪の山』と呼ばれている。
 山の妖怪達は高度な技術を持っていた。人間の浅知恵と見下されがちな科学が、この土地では受け入れられている。
 そのおかげで、日本(外の世界にある国の一つ)の中世時代程度の文明レベルである幻想郷で、唯一近未来的な場所となっている。
 そんな妖怪の近代的居住地《モダンコロニー》は住民の仲間意識が強い分、排他的な性格を持っていた。みだりに外部と交流を持たず、侵入者対策のために防人を配備するほどだ。
 妖怪の山の頂上付近にある樹上で、周囲を哨戒している犬走椛《いぬばしり もみじ》も、そんな防人の一人であった。
 雪のように真っ白い髪の毛の間から飛び出している狼のような耳は、彼女が白狼天狗という妖怪の証である。
 腰には太刀。左手には盾を持っている。盾には紅葉したカエデの葉の紋章があった。
 椛は頂上付近からの風景を見る。彼女は「千里を見渡す程度の能力」を持っていた。そのおかげで、一歩も動かずに妖怪の山全体を見張ることが出来る。
「む!」
 椛は人里の方向から侵入者を感知した。数は一人だ。
 急いで飛べばまだ間に合う段階だ。椛は現場へと急行する。
 侵入者は人間では無かった。かと言って、妖怪でも無い。椛は知り合いが発行している新聞で青い鎧姿を知っていた。ゲイリー・スー。数日前に外界とは異なるグラールと言う世界からやって来た、心を持つ機械人形だ。
「止まりなさい!」
 ゲイリーの前に降り立った椛は、太刀を抜いて切っ先を彼へと向ける。
「此処から先は我々の領域です。よそ者は即刻立ち去りなさい」
 警告するが、椛はこれで相手が帰るとは思っていなかった。わざわざ妖怪の山に来る人間など、おとなしい者がいるはずもない。
 ゲイリーが腰の小箱に手を伸ばすと、小さな光が現れた。何かの攻撃かと、椛はとっさに盾で防御しようとするが何も起こらなかった。
 ゲイリーの手には二つに折った紙切れがあった。
「河城にとりという技術者に会いに来た。俺の武器の修復を依頼したい。紹介状もここにある」
 太刀を納め、しかし十分に警戒しながら、椛はゲイリーから紙切れを受け取る。


 ゲイリーをにとりに会わせてあげて。射命丸より


 紙にはそう書かれていた。適当な紙に走り書きされた文字を見て、椛は強い不快感を持った。
「またあの人は勝手なことを……!」
 射命丸はいつもそうだった。新聞の取材と称して不用意によそ者と関わりを持ち、山に問題を持ち込んでくる。
 鴉天狗として、山に住む妖怪の一員として、射命丸にはもっと自覚を持って欲しいと椛はいつも言っているが、全く聞き入れようとしない。
 出来ることならばこの紙片を破り捨て、ゲイリーを追い返したいところだが、そうもいかなかった。
 射命丸が紹介状を書いたことは事実なのだ。不愉快ではあろうとも、椛はゲイリーを案内する義務があった。
「……ここで待っていなさい。上司から許可をもらってきます。言っておきますが、この山における貴方の行動は全て私に筒抜けです。くれぐれも勝手な行動をとらないように」
「ああ、分かった」
 ゲイリーが近くの岩に腰腰掛けたのを見た椛は、上司である大天狗の元へと飛んでいった。
 それから数十分後、椛はゲイリーの元へと戻ってきた。
「貴方に入山許可がおりました。ただし、決して私のそばから離れないことが条件です」
 椛に射命丸の紹介状を無効にする権限は無かったが、上司の大天狗にはあった。
 あんな適当に書かれた紙切れを見せれば、きっと紹介状を取り消すだろうと椛は思っていたが、驚いたことに大天狗はゲイリーの入山許可を出したのだった。
 射命丸の言いなりになるようで、椛にとってはシャクだった。しかし、責務は果たさなければならない。
 ゲイリーは空を飛ぶことが出来ず、彼に合わせて椛も徒歩で山を登る。彼女が先頭を歩く形だが、後ろから攻撃されても対処出来るよう、自身の能力で常に背後を警戒する。
 千里眼のお陰でゲイリーの様子は肉眼で見なくても手をとる様に分かった。妖怪の山の風景が珍しいのか、観光客のように周囲を見渡している。
 よそ者に山をジロジロと見られて、椛は良い気分がしなかった。これは仕事だと何度も自分に言い聞かせてかろうじて冷静を保つ。
 ゲイリーが面会を求めた河城にとりは山の中腹に住んでいた。近くには清流が流れている気持ちの良い場所だ。
 にとりは河童という妖怪の少女であり、同時にエンジニアでもあった。元々河童は手先が器用であり、便利な道具をいつくも作って、山の生活を豊かにしてくれる。
 にとりに武器の修復を依頼するのもそう不自然なことではない。しかし、椛は鵜呑みにしなかった。そんなのはただの口実で、もしかしたら河童の技術を盗みに来たかもしれないからだ。
 しばらく二人は無言で山を登り続ける。
 ほどなくして、にとりの家に到着した。椛は彼女と将棋をさす仲なので、何度もこの家に脚を運んでいるが、いつ見ても奇抜な外観だ。
 家のあちこちには用途がさっぱりわからない機械がくっついている。屋根には大きなお椀(にとりがいうには”あんてな”というらしい)が空に向けて取り付けられている。
「にとり、私です。椛です。いますか?」
 椛は中にいるであろうにとりに呼びかける。
「椛? ごめん、いま手が離せないから勝手に入ってきて良いよ」
 椛は入口の引き戸を開けて、中に入る。ゲイリーもそれに続いた。
 にとりの家は玄関を入ってすぐが彼女の工房となっていた。
 緑色の帽子をかぶっている少女が、工作台で機械を分解している姿があった。彼女が河童の河城にとりだ。
「今日はどうしたの? 次に将棋をする日は明後日だったはずだけど」
 作業が切りの良いところまで進んだのか、にとりは顔をあげる。その時、椛の後ろにいたゲイリーを見て、ひどく狼狽する。
「も、椛! その人は誰!?」
 にとりは頭を抱えながら作業台の下へと隠れる。彼女は人見知りな性格だった。にもかかわらず「人間が好き」と公言しているのだから変わり者である。
「あなたも射命丸さんの新聞を読んだでしょう? 噂の異世界人ですよ」
「え? 本当!」
 先程とは打って変わって、にとりはキラキラと宝石のように瞳を輝かせる。機械好きな彼女にとって、心を持った機械人形は歩く宝物なのだろう。
「分解させて!」
 にとりはポケットから工具を出してゲイリー迫った。
「断る」
「なんで?」
「当たり前だろう! 誰が好き好んで『解剖』などされるか」
「いーじゃん、ちょっとくらい。大丈夫大丈夫。ちゃんと元通りにするからさ」
 にとりとゲイリーのやりとりを見ていた椛は、このままでは収集がつかなくなると判断し、二人の間に割って入る。
「にとり、彼は壊れた武器をあなたに修理してもらうためにきたのです。分解は諦めてください」
「武器? もしかして異世界グラールの?」
「ああ、そうだ。これの修理を頼みたい」
 ゲイリーはくの字に曲がった剣をどこからとも無く取り出した。刀身には指が入るほどの穴が開いている。
「チョット見せてね」
 にとりはゲイリーから剣を受け取る。
「出来そうか?」
「うん、大丈夫だよ。ここ最近はグラールの機械をたくさん分解してリバースエンジニアリングしたから、この程度の武器なら直せるよ」
「グラールの機械を分解?」
「そうだよ。ほら、あそこの棚にあるでしょう?」
 にとりが指さした棚には確かに見たことも無い機械が並んでいた。椛はにとりの作った機械を見たことがあるが、これらの機械は彼女の作品とは異なる雰囲気があった。
「フォトンリアクターっていうんだっけ? すごいよね、空間中にある霊力とか魔力みたいなエネルギーを吸収して動力源にするんだから」
「確かに、射命丸さんの言うとおり、河城さんの技術力は高いな」
「えへへへ、ありがと」
 その後、ゲイリーは壊れた剣(スライサーというらしい)をにとりに預けた。
「明日までには直せるから、お昼ごろにまた来てね」
「ああ、分かった。頼む」
 そのことを聞いた椛はゆううつな気分になる。二度もよそ者を妖怪の山に入れなければならないからだ。
 また明日、この機械人形と顔を合わせなければならないことにうんざりしつつ。椛はゲイリーを麓まで送っていく。
 行きと同じように、椛とゲイリーは無言で下山する。
 にとりの家でもずっとゲイリーを見張っていた椛だが、彼から不穏な動きは感じられなかった。どうやら、本当に武器を修理してもらいに来ただけのようだ。
 しかし、ゲイリーがよそ者であることは変りない。
 椛にとって、日々に生活において身内以外の他人など必要ない。彼女は交流そのものを否定するつもりはないが、何事にも許容量というものはある。
 集団生活をすればどうしてもトラブルの火種が蓄積するものだ。水を過多に注ぎ込めば、かならず器から溢れ出してしまう。交流を身内だけにとどめておけばそんなことも無い。
 その時、ガサガサと草をかき分ける音が聞こえてきた。椛はゲイリーに集中していた千里眼の力を周囲に向ける。
 椛は内心で「しまった」と思った。ゲイリーのみに注意を向けすぎて、囲まれていることに今の今まで気づくことが出来なかった。
 椛とゲイリーを取り囲んでいるソレが姿を現した。
 一見すると、それは鬼のように見えた。一つ目で大きな角と小さな角がそれぞれ二本ずつ頭から突き出している。だが、こいつらは鬼に似ていても全く違う。
 鬼は心身共に強靭な妖怪ではあるが、こいつらは理性はおろか知性すらも無い。一応、氷の魔法を使うが、あまりにも稚拙だ。
 ここ最近、幻想郷の各地に見たことも無い妖怪が現れる異変が起こっており、妖怪の山にはこの鬼もどきが現れていた。
「ゴーモンか……!」
「貴方は知っているのですか?」
「ああ。この間人里を襲ったヴァンダと同じで、こいつらもグラールの生物だ」
 ゲイリーが武器を取り出しながら答える。
 武器は剣ではない。たしか、「拳銃」という武器だ。
「俺は自分の身を自分で守る。悪いが犬走さんもそうしてくれ」
「もとよりそのつもりです。誰がよそ者の助けなど借りるものですか」
 椛はゲイリーと背中を向け合い,それぞれの敵を倒す。
 ゲイリーがゴーモンと呼んだ鬼もどきは、それほど強いわけではない。氷の魔法に気をつければ人間でも倒せる。
 椛はわずか二歩で、一気に近くのゴーモンと間合いを詰める。相手が攻撃を始める前に太刀で斬り伏せた。
 続けて、椛は別のゴーモンを標的とする。盾で一つ目の顔面を殴りつけて倒した。
 両脇から二体のゴーモンが氷の魔法を発射する。しかし、椛は真上へ跳躍して回避した。
 その結果、盾で殴り倒されたゴーモンは、椛の代わりに氷の彫像となる。
 空中の椛は急降下して、氷の魔法を放った二体のゴーモンの片方を脳天から真っ二つに斬る。続けて、背後にいる残る一体を、振り向きざまに太刀を突き刺した。
 ゲイリーも椛と同様に戦果を上げていた。冷静で確実にゴーモンを仕留めている。
 敵は椛たちを取り囲むほどの数であったが、湯が沸くよりも早く全滅させた。
 しかし、戦いがこれで終わることは無かった。
 空から咆哮が聞こえてくる。椛が見上げてみると、コウモリの翼をはやした巨大なトカゲがいた。角や体中にある刺からは雷と同じ色の光が宿っている。
「ゾアル・ゴウグまでいるのか!」
 ゲイリーがその名前を知っていることから、恐らくこれもグラールの生物なのだろう。どことなく龍に似ているが、どう猛なまなざしからは、人も妖怪も神聖視する荘厳さ皆無だ。
「ゲイリー、貴方はこのまま麓へ向かいなさい。こいつは私が倒します」
「一人でか? 無茶だ!」
「私は白狼天狗です。山の敵は私が倒します。よそ者が首を突っ込まないで下さい!」
 椛はゲイリーの返事を聞かず、空へ舞い上がる。
 立ち向かってくる椛の姿を見つけたゾアル・ゴウグが突進してくる。
 椛は風に舞う木の葉のようにひらりとかわす。ゾアル・ゴウグが横を通り過ぎた時、強風が吹き荒れた。
 その風で姿勢を崩す椛ではなかったが、自分の戦っている相手の大きさを実感せざる得ない。
 旋回して戻ってきたゾアル・ゴウグは口から雷の熱戦を吐いてくる。しかし、これも椛は回避した。
 その巨体ゆえか、ゾアル・ゴウグは動きが大雑把だった。繰り出してくる攻撃は、妖怪でも無傷で入られないだろうが、当たらなければ大丈夫だ。
 ゾアル・ゴウグが口を開く。今度は熱戦ではなく、雷球を打ち出してきた。
 速度はそれほどもでも無い。椛は左に移動し、攻撃を紙一重で回避しようとする。
 だが、雷球は引き寄せられるように椛へと向かってきた。
 誘導弾。そうと知ったときにはすでに遅かった。左に避けたのもまずかった。椛は盾を持っていない右側から雷球の直撃を受ける。
 雷球に込められたエネルギーが爆発し、椛は吹き飛ばされる。感電して体がしびれてしまい、体勢を立て直せない。
 地面が目前へと迫ってくる。椛は思わず目をつぶる。
 その時、椛を誰かが受け止めた。目を開けてみると、なんとゲイリーが彼女を受け止めていた。
 ゲイリーは落ちてきた椛の下敷きになっていたので、彼女は慌てて立ち上がる。
「よ、余計なことをしないで下さい! あんな龍もどきなど私一人で十分と言ったでしょう!」
「あ、おい!」
 ゲイリーが何かを言かけるが、椛はそれを無視して再び空へ舞い上がる。
 吹き飛ばされた時に太刀をどこかに落としてしまった。しかし、椛は引き下がらなかった。
 元々、妖怪の山を哨戒する役目である椛は、不利な状況ならば無理をしてはならなかった。しかし、よそ者の前で無様な姿を晒したくないと、彼女は冷静さを失っていたのだ。
 空に戻った椛は再びゾアル・ゴウグと対峙する。
 またあの雷球を撃たれたら厄介だった。まだ感電のしびれが抜けきっていない椛は回避する自信がない。
 椛はスペルカードを取り出す。一気に決着を付けるつもりだった。
 しかし、ゾアル・ゴウグの方が早かった。椛めがけて一直線に向かってくる。技を使おうと意識を集中させた椛は、回避行動が遅れてしまう。しびれが抜けきっていない体で、今から避けようとしても間に合わない。
 だが、横から飛んできた光弾がゾアル・ゴウグの片目を射抜いた。
 ゾアル・ゴウグは痛みで動きを止める。
 椛が弾の飛んできた方向を見ると、いつのまにか樹の上にいるゲイリーが、拳銃を構えている姿があった。
「犬走さん! スペルカードを!!」
 ゾアル・ゴウグが片目を奪ったゲイリーに向かって雷球を発射する。
 ゲイリーのいた樹は、真ん中からまっぷたつに折れてしまった。椛のいる場所からは、彼がどうなったのか確認できない。
 だが、ゲイリーのお陰でゾアル・ゴウグの注意が椛から外れた。
「狗符『レイビーズバイト』!!」
 ゾアル・ゴウグの上下に弾幕が出現する。それは、狼の牙のように巨体へと噛み砕いた。
 無数の光弾に背中と腹を撃ち抜かれて、ゾアル・ゴウグは絶命する。力尽きたグラールの生物は木々をなぎ倒しながら落下した。
 重い音が妖怪の山に響く。
「ゲイリー! 何処にいるのですか?!」
 椛は地面に降りて、青い鎧姿を探す。
「なんとか倒せたな」
 茂みの中からゲイリーが姿を現した。
「無事でしたか」
「ああ。命中の直前に飛び降りたからな。それと、着地した場所の近くでこれを見つけてきた」
 ゲイリーが持っていたのは、落とした太刀だった。椛はそれを受け取ると、鞘に納める。
「……どうして、私を手助けしたのですか? この土地に住まない貴方には関係の無いことでしょう」
「犬走さんには河城さんの所へ案内してくれた礼があるからな。それなのに自分だけ逃げるほど俺は不誠実な人間じゃないさ」
 椛の経験上、妖怪の山に害意を持って近づいてくる者は、その多くが誠実そうに振舞っていながら、その実不誠実の塊であった。何でもない時に口先だけの誠実さを吐いて、いざ誠実でなければならない『その時』にはあっさりと手のひらを返す。
 しかし、ゲイリーは吹き飛ばされた椛を受け止め、さらにはスペルカードを使うチャンスを作ってくれた。いざ『その時』に誠実でいてくれたのだ。
「どうやら、私は貴方のことを誤解していたようです。礼節を欠いて申し訳ありませんでした」
「なに、信頼とは行動と結果のみでしか築くことが出来ない。対して気にしていない」
「し、しかし……」
 気にしていないといわれても、それでは椛自身が納得できなかった。良くも悪くも、彼女は生真面目だった。
 その時、ゲイリーが掌を差し出してきた。それが握手を求めているのだと察した椛は、誠意を込めてその手を握り返した。
 機械で出来ているゲイリーの掌は硬い感触ではあったが、椛はたしかな心がこもっているように感じられた。
「戦いで少し時間をとられましたね。さあゲイリー、麓へ行きましょうか」
「ああ」
 椛は外敵を監視するのではなく、友人を送る心構えで、ゲイリーを麓まで案内した。
「……そう……全ては行動と結果だ。言葉だけで作られた信頼など何一つ信用出来ない……何一つな……」
 後ろでゲイリーがポツリと呟いた。本人は誰にも聞こえないつもりで言ったのだろう。しかし、妖怪で人間よりも耳が良い椛は、はっきりと聞き取れていた。
 椛は聞こえないフリをした。ゲイリーの言葉の意味を訪ねることが出来ないほどに、彼の声には強い憎しみがこもっていたからだ。
(ゲイリー……貴方の過去に何があったのですか?)
 前を歩く椛は、もしも彼の敵が現れるのならば、今日の恩義に報いろうと静かに決めた。





「……しかし、これでよろしかったのですか?」
 天狗社会の頂点に立つ天魔は、目の前の二人に尋ねた。
 一人は女性でありながらも猛々しい雰囲気を持っていた。胸元に小さな鏡をつけている彼女は、名を八坂神奈子という。
 もう一人は神奈子とは対照的に幼い姿だった。目玉を模した装飾品のある帽子をかぶっており、洩矢諏訪子という名だ。
 二人が並ぶと親娘のようにも見えるが、実際は違った。彼女たちは妖怪の山にある守矢神社で神として祀られる二柱だった。
 彼女たちは天魔の元を訪れたと思うと、ゲイリー・スーと言う心を持った人形を、妖怪の山に入れるよう頼んできたのだ。
 相手が神である以上、相応の誠意を見せなければならない。天魔は椛の上司に、ゲイリーと名乗る者が現れたら通すよう命じた。
「これでいいのさ。八雲紫の目論見が上手くいくかどうか様子見するのも悪くないだろう?」
「しかし八坂様……天狗の長として、かの者を野放しにしておくのは……」
 八雲紫がゲイリー・スーを使って何をするつもりなのかは、加奈子と諏訪子を通じて天魔は聞かされている。
 大局からモノを見れば、加奈子の提案は正しいのだろう。しかし、天魔は僅かでも山に厄災をもたらすのならば、それを排除したかった。
「別にそんなに心配することないよ」
 まだ納得しきれていない天魔に、諏訪子は気軽に言った。
 人々から崇められる神ではあるが、諏訪子はその姿相応の子供っぽい振る舞いをしている。
「ゲイリーがこの異変にまつわる物語の『主人公』であっても、『敵役』であっても、妖怪の山を信用させるのは損じゃないはずだよ。一緒に協力して敵を倒すのも、敵として始末するのにもね」
 諏訪子の言葉を聞いた天魔は、神は幼子のような姿でも、やはりその本質は神であると改めて実感した。


第4話へ続く


第3話捕捉
 今回の主人公である犬走椛は、最新作(2010年5月現在)のダブルスポイラーで明らかになった、「射命丸とは仲が悪い」という設定を適応しています。

 ダブルスポイラーにて射命丸は「椛は烏天狗を見下している」というコメントをしていますが、同じ烏天狗の他のキャラクターは差別意識を感じていないため、私は「射命丸の個人的な感想」と解釈し、「椛は射命丸に普段あれこれ注意している」と展開しました。

 ちなみに椛に出演してもらったのは、彼女が剣+盾というPSPo2におけるセイバー+シールドと同じ装備だからです。
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by ginseiseki | 2010-05-18 15:47 | 二次創作小説
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